01
十六歳の誕生日。幸せなはずの誕生日は泣き腫らした顔で終えた。そして朝起きて驚愕しすぎて言葉を失った。すやすやと眠るシリウスが隣にいたのだから。
「まずいわ。まずい、まずいまずいまずい」
「うるさい」
一人頭を抱えて呪文のように唸っていれば、突如聞こえてきた酷い言葉。誰だなんて分かっている、そしてヘルが頭を抱えているのが誰のせいかも。
「どういう状況?」
縋るようにヘルがシリウスを見れば、彼は特に気にした風もなか相変わらず美しい銀髪を掻き上げながら眠そうに欠伸をしていた。
「別に」
そう、あなたはこの状況を別にの一言で収めてしまうのね。そうよ、あなたはそういう奴よ。
シーツを握り締めなが震えていると何を勘違いしたのかシリウスは、そっと頬に触れてきた。
「……ッ!」
反射的にその手から逃げるように後ずさる。決して間違った反応ではない。
「ヘル?」
何を当たり前のような顔で私に触れているんだ。
ヘルの心は動揺していた。下着同様のネグリジェの胸元を握り締めてしまうぐらい。お酒を飲んだ記憶はない。彼と過ちを犯してしまった違和感もない。でも、王子と王女としては間違った朝を迎えてしまったのは事実だ。
「部屋に戻って」
ヘルの声は震えていた。発してしまった自分でも驚くぐらいに。もしかしたらヘルは泣きそうなのかもしれない。泣いて終わった十五歳、泣いて始まる十六歳なんて願い下げだった。
「何故?」
何故!?
この男は自分の言っていることを分かっているのだろうか。馬鹿じゃない、むしろシリウスは冷静で物事を考える男だ。小さい時からそうだった。なのに、今、この状況で、何故!?
ヘルは信じられないものを見る目でシリウスを見つめた。
「独りは嫌なんだろう?」
「え」
「アフロディーナはキースと、ベラトリクスはアトラスと。俺たちは残り物だな」
ヘルは喉が詰まったかと思った。だって上手く息ができないのだから。
シリウスの言ってることは、こういうこと?残り物同士慰め合おうと。そこに愛なんてなくとも。
「出て、行って」
「だから……」
「出て行って!」
結局、涙で始まってしまった十六歳。
ヘルは泣いた。怒りで、悔しくて、哀しくて、刹那しくて、淋しくて。
少しでも愛おしいと想った自分が恥ずかしくて。
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