07
これは、少し哀しくて、少し愛しい、小さな小さな御話。
茨の刻まれた鋼鉄の扉の奥に幽閉された王女は人々から忘れ去られた。
「あら、また来たの?」
それは聞き落としてしまいそうな細い声。
「どこまでお話したかしら?」
漆黒のベールから覗く手は白く、細い。その指先に止まった小鳥に、王女は今日も語りかける。
「そんなに焦らないで」
さえずる小鳥に小さな笑みを零し、王女は懐かし気に四角い空を見上げた。
「時間なら沢山あるから」
思い出すように語るのは、幸せだったはずの自分の物語。[ 29/46 ][*prev] [next#]
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