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彼は慰めの言葉を掛けたり、優しく手を差し伸べたり、そんなことはしなかった。ただ、そこにいた。

嗚咽がおさまり、ようやく顔を挙げた時の彼の顔がとても悲し気で、悔し気で、傷付いたように辛そうで、ヘルは思わず涙も止まり「どうしたの?」と問い掛けてしまいそうになった。


「シリウス?」

「……」


名前を呼んでも彼はヘルの瞳を真っ直ぐと見つめたまま何も言わない。


「シリウス、どうした……ッ」


言葉を最後まで紡ぐことはできなかった。シリウスがヘルの腕を掴むとそのまま自分の胸へと抱き寄せたから。ヘルの背中にはシリウスの手が力強く添えられている。


「シリウス?」

「……ヘル…ッ」


どうして?どうして?
ヘルには分からなかった。どうして、シリウスがそんなに辛そうに自分の名前を呼ぶのか。でも、何故か、今のシリウスはいつもの飄々として冷徹な彼ではなくて酷く弱っているように思えた。

だから、そっと、応えるようにヘルはシリウスの背に手を回し、幼い子を慰めるように背を撫でた。


「シリウス、大丈夫よ」


何が大丈夫なのか分からなかった。私は大丈夫よと言いたかったのか、それともあなたは大丈夫よと伝えたかったのか。


「大丈夫、大丈夫」


ただ、震える彼の肩がどうか早くおさまって欲しいと想って彼の名を呼び続けたんだ。


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