04
石畳の螺旋階段をヒールを鳴らしながらひたすら登る。そういえば昔、この塔に忍び込もうとして父に酷く咎められたことがあった。
あの頃は何故あんなにも怒るのか分からなかったけど、今なら分かる。こんな場所、近付けたいわけがない。
いや、違うか。
ふと、気付く。あの時、まだいたのかもしれない。先代の魔女が。いつだったか、黒い葬儀があった日を覚えてる。あれは、魔女の葬儀だったのかもしれない。
茨の刻まれた鋼鉄の扉。
雰囲気出てるわねと鼻で嗤った。精一杯の強がり。
「ヘル」
「レグルス」
「時が来たか」
「えぇ」
獅子は空を見上げた。つられたようにヘルも天を仰ぐ。まるで込み上げてくる泪を零さぬようにと。
「さようなら、レグルス」
「ヘル、愛してる」
「さようなら、レグルス」
別れの言葉は風に攫われた。
愛を囁くことができなかった。最後の最期に愛を伝えられなかった。あの金の鬣にも触れることもできなかった。
だって、今、愛を囁いたしまえば、だって、今、あなたに触れてしまえば、精一杯の強がりが崩れ落ちてしまいそうだから。
ヘルは目を伏せ、レグルスに背を向けた。
空が白んできた。もう、そこまで終わりが迫ってる。ヘルはもう振り返らなかった。
重たい鋼鉄の扉を押しながら思った。[ 26/46 ][*prev] [next#]
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