03
黒いドレスを身に纏い、黒いベールを頭から流したその姿はまるで魔女のようだとヘルは思った。
王家の呪い。
父はそう言った。王家に双子が誕生した時、先に産まれた子は十八の歳になった日、人々の記憶から消え去り東の塔に幽閉される。
ヘルは見納めだとでもいうようにゆっくりと城内を歩いたのだった。
「ヘル様」
「あら、二人とも。どうしたの?」
「塔の警護を任されました」
律儀に頭を下げたのは姉のポルックス。隣で今にも泣きそうな顔で口を結んでるのが弟のカストル。二人は双子の衛士だ。
「二人を側に置いてくれるなんて、お父様も甘い方ね」
「ヘル様は、実の娘を幽閉するお方が甘いと言うのですか」
「ふふ、ポルックス。そんな恐い顔しないで。綺麗な顔が台無しよ。それに……お父様をあまり責めないであげて」
ヘルの悲しげな表情に、ポルックスは苦虫を噛むように俯いた。
「ヘル様、あいつは……失礼しました。あのお方はこのことを知っているのですか?」
過ぎた言葉使いのカストルを視線で諌めて、私は城から一歩外に出た。ここで産まれ、ここで育った。この城とも、お別れ。
もうすぐ陽が昇るだろう。そうすれば皆の記憶から私は消える。忘れることを、わざわざ言うまでもない。
柔らかい芝生を踏みしめながら小さく首を振った。
「何も知らないわ。知らなくて良いことだもの」
「そんな!ヘル様は!」
「やめなさい、カストル」
声を上げたカストルをポルックスが咎める。それでも身を乗り出すカストルにポルックス俯きながら首を横に振った。そして、カストルは愕然としうな垂れた。
「塔の護衛お願いね」
「命を掛けまして」
「ヘル様のお命、護らせて頂きます」
右手を左胸に当て、二人は揃って頭を下げた。[ 25/46 ][*prev] [next#]
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