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01

ヘルは音をたてないように自室の扉をそっと背中越しに閉じた。ヘルのベッドに膨らむ山が一つ。もちろんヘルではなく、他の人物のものだ。規則的に動くそれに、安堵するとともに気が緩んだのか、込み上げてきたものを堪えるまもなく零してしまった。


「……ッ」


嗚咽を抑えるように片手で口を覆う。

あぁ、どうか気付かないで。
あぁ、どうかお願いそのまま眠っていて。

落ち着け落ち着けとヘルは自分に言い聞かせ、深く息を吸い込み、そっと長く吐き出した。そして、気を落ち着かせたあとようやくベッドへと近付いた。

僅かな物音や気配でも彼は起きてしまうというのに、今の彼は安心しきったように穏やかに寝息をたてている。

彼がヘルに気を許している証だ。

ふと、さっきまであったはずの胸のもやもやがあとかたもなく消えていた。確かに部屋に入るまではあって、入った瞬間溢れだしてしまったそれが。

嵐が去った後の水面のように穏やかだった。


「シリウス」


月明かりに照らされキラキラと星のように輝く彼の銀色の髪にそっと触れた。

ヘルの伸ばした指は微かに震えていた。


「ん……」


漏れた声に、はっとして手を離したがシリウスが手を取られてしまった。

ヘルは焦った。

何も言わずに、本来ならば会うこともせず、逝くはずだったのに。


「ん、ヘル?」

「……何?シリウス」


心の影がばれぬようにと微笑めば、彼は安心したよう笑みを零し、また規則正しい寝息をたてた。


「シリウス、シリウス……ッ、シリウス!」


あぁ、溢れ出すこの想いを言葉にせずにはいられない。


「愛してるわ」


どうか、全てを忘れて下さい。


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