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18

壁際にできた人集りが気になっていた。

決して顔にも口にも出しはしないけど。きっと、あの人集りの向こうにいるだろう彼はつまらなそうな顔をしているのだ。

グラスに注がれたジュースを飲み干して重たい腰を上げた。


「お、やっと動く気になったか」

「お父様、ちょっと風に当たってくるわ」

「あぁ、そうか」


酷くがっかりした父に苦笑し、長い裾を翻した。

テラスに出れば優しい風が頬を撫でる。ほっと息を吐く。

テラスまで短い距離だったのに、向けられる視線が痛くて仕方がなかった。父の御前、表立って顔には出さないものの、その目は冷たい。


「あぁ、窮屈な世界」


頬杖を付き眺めたその景色は雄大。
世界は広い。
未知なる世界。

なのに私の世界は狭い。

ふとレグルスのことが脳内を横切った。
彼は大丈夫だろうか。傷はまだ痛むだろうか。

ふらりと私は誘われるように外へと歩き出した。夜の森は危険だと何度も言われていたのに。

暗闇の中、月明かりだけを頼りに真っ直ぐ森の中を進む。


「ヘル」

「レグルス」


彼はヘルが姿を現す前から、その存在に気付いていたかのように咎める口調でヘルの名を呼んだ。あまりにも威圧的なその声色にヘルは足を止め、縋るように彼の名前を零した。


「どうやら私はそなたを見誤っていたようだ。あまりにも軽率な行動だとは思わなかったのかね?ここまで来る間に少しでも危険だと、行けないことだと気付きはしなかったのかね?私との約束を微塵も思い出しはしなかったのか」

「ごめんなさい、でも……」

「謝罪も、弁解もいらぬ!今すぐここから去れ!次の満月まで森に近付くことを禁ずる!」

「そんな!レグルス、私は!」

「ヘル嬢、此度は生誕お祝い申し上げる」

「やだ、レグルス、そんな……嘘だと言って」


獅子の瞳にヘルが映ることはなかった。向けられた背中は百獣の王ではなく、知らぬ獣のものだった。


「そなたの軽率な行動で昨日、一つの命が絶たれたことをお忘れなきよう」


もうだめだった。堪えられなかった。

ぼろぼろと流す涙を拭う余裕もなく、来た道を駆け戻るのだった。


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