17
こうしてヘルは浮かない気分でいつも誕生祭を過ごすのだ。しかし、少年の登場でヘルの気分は軽くなった。
何だかいつもより催しが面白く感じたし、悪い気分じゃなかった。キルトから貰った花はお色直しのために部屋に戻った時、小さな花瓶に飾った。
太陽と月が役目を交換した頃、ダンスパティーの始まりの鐘が鳴った。
ダンスパティーは、昼間と違い身分の高い者しか参加できない。そんな規制があるためか夜のパティーは格式が高くヘルは面白くないと思っていた。
「お父様」
「どうした?お前は踊りにいかないのかい?」
「いかないわ。すごく退屈。退席しても宜しいかしら?」
「ははっ、それは良くないと思うぞ。仮にもお前の誕生日を祝ってくれてるのだから」
私のじゃなくてディナのでしょとヘルは思ったが、そういう考えは父が嫌うため胸に閉まったままにした。
「お前も踊ってきたら良い」
「……じゃあ、お父様が私と踊って下さる?」
ほんの冗談のつもりで言ったのに父の瞳は寂しげになり、困ったような表情になってしまった。
「冗談よ。知ってるわ、お父様はお母様以外の人とは踊らないって」
「すまない」
「やだ、本気にしないでってば」
そんなの惨めになるだけだ。
「でも、だったら私もお父様と同じようにたった一人。心に決めた以外の人とは踊らないわ」
「ほう、そんな相手がいるのかい?」
「……」
いないからここにいるというのに。
父様は時に意地悪だ。楽しそうに目が輝いてる。
「今、待ってるところなのよ」
拗ねたように言ったヘルは幼さが垣間見えた。[ 19/46 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]