16
式典の前、ヘルとアフロディーナは国王の元へ挨拶に伺った。
国王は双子の父。
王の間の前には二人、守衛が立っている。二人の視線がちらちらディナを見ていて、まるで目の前を飛び交うハエのように煩わしかった。
「お父様!素敵なドレスありが……」
「アフロディーナ、はしたない」
広間に入るなり両手を広げて駆け出そうとしたディナをドレスの裾を踏んで、引き止めた。危うくつんのめりそうになったのは、知らない振り。
そんなに頬を膨らましたって知らないんだから。
「お父様、ドレスありがとうございます」
淑やかに頭を下げれば、隣に並んだディナも倣うように優雅に頭を下げた。
「ヘル、良いのだ。そんなに畏まらなくて」
「はい」
「お父様、見て!綺麗でしょ?」
ドレスの裾を摘まんでくるりと回ったディナ。その格好での身のこなしには正直尊敬する。
「あぁ、二人とも本当に美しい」
満足そうに微笑む父の笑顔は柔らかい。父はヘルとアフロディーナを区別しなかった。むしろ、長女であるヘルの方に気に掛けているぐらいだった。
「アフロディーナは年々メノアに似てくるな」
「ふふっ、ありがとうお父様」
「だが、雰囲気はヘル。お前の方がやはり似ているな」
父は昔からヘルが母に似ていると言っていた。記憶に残る母は私とは正反対なほど穏やかで美しい人だったはず。何が似ているのかヘルには全く理解できなかった。
「ヘル、少し残りなさい」
「はい」
先に言ってるわと、ディナが目配せしたのにヘルは小さく頷き父に向き直る。
「十六になったか」
「はい」
「覚えているな?」
「もちろんです」
昔から言われてきたことがある。
十八歳になったら大切な話があると。まるでカウントダウンするかのように父はこの日、その確認をする。
十八歳になったその時、何があるのかヘルは知らない。ただ、この確認をする時の父の表情は固くこわばり怯えているような怒っているような、そんな難しい顔をするから薄々感じている。
きっと良い話ではない。[ 18/46 ][*prev] [next#]
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