15
年に一度誕生祭を行う。
その日は中央国王女の誕生日にまとめて行うことになっている。勿論、各国でも王女王子の誕生日を祝っているが中央国の誕生日は特別だった。
太陽が昇っているうちは式典を行った後、広い庭で民達の催しを観る。そして月が顔を出した頃、城内でダンスパティーだ。一日かけて行う誕生祭に始まる前からヘルは項垂れていた。
上座に並べられた六つの椅子。
背凭れは天高くそびえ、金細工が施されている。ベルベット色のシートは柔らか過ぎず硬過ぎず、丁度良い座り心地。できたらずっと座っていたいぐらいだ。
「アフロディーナ様!お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう」
ディナのファンは多い。ディナ見たさに来た者も多いだろう。民とこのように楽しいひと時を過ごせるのも平和な証だ。
「ヘル様」
「え」
ディナの前に並ぶ行列を眺めていたら不意に声を掛けられ間の抜けた声を出してしまった。顔を向けた先には誰もおらず、視線を下げたそこに小さな人がいた。
「ヘル様、おめでとうございます」
幼い故に舌足らずな喋り方は可愛らしく純粋なその瞳からは温かさが伝わってきた。少年が両手に握り締め突き出した花は、隣でディナが貰っているような豪華さはなかった。
ヘルは胸が熱くなった。
上辺だけで渡される薔薇よりも、心のこもった野花の方が何百倍も美しく感じたのだ。
「ありがとう」
「も、申し訳ありません!このような雑草をヘル様に!」
受け取ろうと手を伸ばしたところ、突然手が伸びてきて遮られてしまった。
野花が儚く散り、地に落ちた。
それをヘルは呆然と見つめていた。
「……どうして?」
「え」
ヘルは立ち上がり、そっとしゃがみ込んだ。そして地に横たわる花を一つ掬った。
「こんなに美しいじゃない」
「いや、しかし、それは、その辺に咲いてる……」
「ありがとう。少年、名前は?」
「そ、そんな名前なんて!」
この男はどうしてそんなに慌てているのだろうか。ヘルは理解できなかった。
「名前は大切よ。名前は、そのものがそのものである証拠。そして生まれて最初にプレゼントされる愛の証だもの」
「僕、僕、キルト!」
「そう、キルト。お花、ありがとう」
「へへっ」
少年の笑顔が何よりのプレゼントだと思った。[ 17/46 ][*prev] [next#]
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