14
母は、まだ幼い時に天に召されてしまった。記憶に残る母は、とても美しくこの世のものではないようだった。だからヘルは幼い頃、母は美し過ぎて神様に連れていかれてしまったと思っていた。まだまだヘルも可愛気があった。
母は美しいだけでなく、とても優しかった。その優しさに壁はなく、私たちには勿論。城のメイドや護衛隊、草花や森の動物たちにも。
母は愛を注ぐ者だった。
「ヘル」
「シリウス……、私はまだ昨日のこと許してない」
「……お前は」
「間違ってるんでしょ?」
皮肉気に言ってしまった言葉は、もう引っ込めることができない。
「二人共、せっかくのパティーですよ?そのぐらいにして下さい」
「そうだぞシリウス。それに今日はヘルの誕生日だ。祝いの言葉の一つぐらい言いたまえ」
「……チッ」
アトラスに宥められヘルは口を噤んだが、シリウスはキースに言われたことばが気に食わなかったらしく舌打ちした。
「王子が舌打ちってどうだい?」
「別に良いんじゃない?」
やれやれと呆れて零したキースの言葉に、我関せずな雰囲気でベラが応えた。王女が剣を振るってるぐらいだもの、ベラはある意味寛大だ。
「お姉様」
「何?ディナ。引っ付かないで。歩き辛いわ」
腕を絡めてきたディナの手を払う。ただでさえコルセットで締め付けらて苦しいのにと嫌な顔をした。
「シリウスはきっとお姉様におめでとうと綺麗って言いたかったのよ」
耳打ちしてきた内容に目を見開く。この子はまた何を言い出すのだ。
胡散臭い顔で妹を見れば、眩しいくらい目をキラキラと輝かせていた。
これは楽しんでいるに違いない。
「アフロディーナ、次言ったら口きいてあげないから」
「あーん、お姉様ったら」
本気で言ってるのを分かってないな?まったく、本当にこの子と私は双子なのだろうか。
溜め息が尽きない一日が始まった。[ 16/46 ][*prev] [next#]
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