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テーマ「推しとの恋」
- ナノ -
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朝、小鳥の唄う声で目覚めたらどんなに爽やかだろうか。きっとディナならあるんだろうな。

ヘルは毎朝まるで底のない湖で溺れ、水面から顔を出すような気分で目が覚める。息苦しさの残る目覚めは、必死に抜け出せた安堵から始まるのだ。


「あー、十六になった朝もこんなんなんて最悪だわ」


ぼりぼり頭を掻きながら洗面台に向かう姿は王女からは、かけ離れていた。

ヘルは鏡が嫌いだった。

真っ黒な髪も紫紺の瞳も見れば見るほどディナとかけ離れていて惨めな思いになるから。

別に私は私だから。なんて思えるほどまだ大人じゃない。

さて、今日は忙しくなる。何回お色直しすることやら。長い一日になることを覚悟し、未だ夢の中に違いない妹の部屋へと向かった。


「ディナー?」


ノックをしても返事はない。

あぁ、やっぱり寝てるなと取っ手を回してふと思う。キースが居たらどうしよう。いや、まさか。さすがに今日はいないだろう。

そう思っても、一瞬想像してしまった邪な考えを振り切ることはできず、そろりと扉を開けた。


「起きなさい、こら」

「ちょ、痛い痛い痛い!」


ハラハラさせた罰だとでもいうようにヘルはディナの美しい髪を引っ張りあげた。ベッドには膨らみが一つ。どんなに安心したことか。朝から無駄に汗かいた。


「あ、香水見ーっけ」

「きゃあ!駄目駄目!絶対駄目!」


つい調子に乗って騒いでしまったヘルは、その後着付けされている間、何だかすこぶる調子が悪かった。


「ヘル様、しっかりお立ちになって下さい」

「は、はい……うっ」


締め過ぎ締め過ぎ!

コルセットを容赦無く締め付けられる。こうなることを予測して何も食べなかったのに、何か吐き出しそうになる。込み上げてくる胃液を堪えた。

一方、飄々とした態度で着付けられていく妹。ディナは、こういうのは平気なのだ。

実に羨ましい。

ドレスだって、ディナに似合う爽やかで淡い明るい色。

それに比べて私はまるで……。


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