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審神者会議なるもの。弍

明朝、いつになく本丸は慌ただしかった。


「それでは御三方、準備は宜しいでしょうか?」


着飾った審神者にスーツ姿の燭台切光忠と乱藤四郎。燭台切は普段着と大差ない姿であるが、乱藤四郎はいつものヒラヒラをしまい燭台切と同じ型のシンプルなスーツを身にまとっていた。これならば女の子に見間違えることもないだろう。美少年であることは紛うことなき事実だが。


「燭台切さん、覚悟は良い?」

「え、覚悟?」


燭台切が「なんの覚悟?」と聞き返そうとしたところに粟田口の面々が見送りに来てしまい聞き損ねてしまった。この時、ちゃんと聞いておけば良かったと後に後悔することをまだ知らない。


「乱、しっかり務めてこいよ」

「もっちろんだよ薬研!じゃあねぇ、」


行ってきます。

くるりと背を向けてぼそりと囁いた乱の横顔に、燭台切の背筋を何かが駆け上がった。

なんなんだ。こんのすけは、気を引き締めろと言うし、乱ちゃんは覚悟がどうとか。いったい、この会議とやらは何があるんだ?

審神者の小さな指が慣れたようにパネルを操作すれば、なんて無い風景が広がっていた鳥居の向こう側が眩い光を放つ白へと変わった。

こんのすけが先導し、それに続く審神者。その隣をぴったりと乱が付いた。燭台切は、一匹と一振りと一人のあとに続き、意を決して光の中へと飛び込んだのだった。

出陣と同じ感覚だった。が、光を抜けた先に待ち受けていたのは、どの時代の風景でもなく、鉄の扉だった。それが当たり前なのか、乱がこんのすけに「何階?」などと尋ねていた。

狭い空間だった。打刀や太刀が五、六人入ればぎゅうぎゅうだろう。大太刀や槍に至っては二人が限度かもしれない。


「燭台切さん、動くよ」

「え、動く?」


突然の浮遊感。胃がふわっと浮く感覚に燭台切は、ぎょっとするが幼い審神者でさえ何ともない顔をしているため慌てて顔を取り繕った。

なんか僕、かっこ良くない。

浮遊感も一瞬で、本当に動いてるのかと疑いたくなるぐらい静かに、でも確かに上昇しているようだった。機会的な音がチンと鳴り、重厚な鉄の扉が左右に開く。燭台切は瞠目した。目の前に広がる景色が、あまりにも自分の世界とは違っていたからだ。世は近未来的世界へと確かに進歩していた。


「燭台切さーん、置いて行きますよー」


ハッと我に返り周りを見渡せば、既に審神者たちは先へと進んでおり少し離れたところから乱が自分に向かって手を振っていた。一面硝子張りの壁から顔を離せないまま廊下を早足で追いかける。


「燭台切さん、吃驚するのも色々思うところがあるのも分かりますけど、あるじさんから離れちゃうのは駄目ですよ」

「ごめんね、気をつけるよ」


見た目年下の乱に叱られ、しゅんと肩も眉尻も下がる。

ほんと僕、今日かっこ悪い。それに比べて粟田口の短刀の心強さときたら。薬研くん筆頭に男前ばかりだ。


「すでに政府の方々もお集まりのようです。着替えに手間取ってしまったばかりに.....」

「何さ、こんのすけ。ボクが悪いっていうのー?」

「いいえ、べつに。ですが審神者様の着物を決めるのに何故あんなにも」

「当たり前でしょー、審神者会議だよ?戦闘服でばっちり決めなきゃさ。ねぇ?あるじさーん」

「乱はちょっといつも可愛いすぎるの選びすぎる。桃色とかヒラヒラとか苦手なのに」

「えー、あるじさん可愛いんだからもーっと可愛くしていーのに!なのにさ、歌仙さんが雅じゃないとか言って、地味な色にするからー」

「歌仙、ナイスセンス。ぐっじょぶ」


ぐっと親指を立てた審神者に、ぶーたれる乱。扉一枚向こうで会議とやらが始まるのに、まるで本丸内のような雰囲気で良いのだろうか。あれほど、気を引き締めろとか、覚悟とか言っていたのに。


「良いのですよ。乱様は、審神者様が平常心でいられるように今、心の準備をされてるのです」


心の準備?一見、審神者はいつもと変わらず飄々とした様子なのに本当のところは違うのだろうか。幼子らしく、怖いとか、緊張とか、恐れとか感じてるのだろうか。まだ審神者との付き合いが日の浅い燭台切には、審神者の表情からは何一つ読み取れることができなかった。


「無駄口はそこまでです。さぁ、行きますよ」


太い木枠の扉が開いた先には政府関係者、審神者、そして刀剣男士らがひしめいていた。燭台切は簡単に圧倒されてしまった。知らない霊力が、痛いと感じるぐらいに突き刺さっている気がするのは気のせいだろうか。臆病なことに、一歩後退してしまった。その時。


「美濃の黒百合、参上致しました」


凛とした声だった。知らぬ者の声だった。審神者の口から発せられたものかと疑うほどに。

術がかかっているのか果てが見えぬ空間だった。そこに普段審神者が使っている電子画面の特大版のようなものが幾つも浮かんでいた。

多くの目が燭台切らを見ている。否、幼い審神者を、だ。中には「子ども?」と驚いた顔をする者もいるが、大半が審神者を知っているようで、その目には異質なものを見る影が潜んでいた。

ざっと見渡しても他に幼い審神者はいない。大人だらけの中に一人紛れ込んだ審神者は酷く小さい存在だった。

政府の職員が審神者に近付いてきた。それに乱が反応する。柄に手を掛け、審神者の前へと出た。


「美濃の黒百合様ですね。本日の緊急会議は、全審神者様参加になっております。そのため通常とは違い.....」


職員が形式ばった説明をつらつらと話し始める。眼鏡を掛けた男で、その目は審神者を見下ろしており正直いけ好かない男だと燭台切は思った。


「ご理解頂けたでしょうか」


最後に確かめるように告げられた言葉は、侮辱が混じっていたことに燭台切でも気づいた。怖気づいて下がっていた足が、今度は前へ出る。


「大丈夫。分かりました。難しいところは、乱や燭台切が教えてくれるので大丈夫です」


最初の大丈夫は燭台切に向けた言葉であった。


「何あいつ、いけ好かない」

「乱、大丈夫だから。燭台切くんもありがとう」

「僕は、何も」


そうだ、僕は何もできなかった。それどころか、情けないことに怖気づいてしまいそうだった。

僕達が幼い彼女が審神者だということに疑問や違和感を抱いた以上に、他の審神者や政府の人間は彼女のことを.....。

燭台切は、ようやく理解した。

そうか、ここは敵陣なのか。だからこんのすけは気を引き締めろと、だから乱は覚悟しろと。これから向かうは自分たちの大切な大切な大切な彼女に残酷なほど冷たい世界なのだと。

ここは、戦場だ。

すぅっと燭台切の気配が変色したことに何人の者が気付いただろうか。乱は嬉しそうに唇を緩める。


「あはは!それで良いだよ、燭台切さん!貴方が選ばれたのは」


黒く純粋な殺意を孕んでるからなんだから。

今や乱からは悍ましいほどの殺意が放たれていた。狂喜乱舞するかのような高笑いに周囲の者が訝しげこちらを見ている。それを乱は真っ向から受け返していた。


「ボクらのあるじさんは、異端だ」

「乱」

「だけど、ボクらにとって貴女は唯一無二の主なんだ。それを犯す者は何者だろうと許さないから」


乱はにっこりと綺麗な笑顔を審神者に向けた。審神者も嬉しそうに微笑み、乱の手を握った。手を繋ぐ二人は、仲の良い姉妹のようだった。

僕は太刀だ。乱藤四郎が主の懐刀ならば、僕は二人の前に立ちはだかり、壁となり、盾となり、そして刀として相手を斬り捨てよう。

主の初期刀である山姥切国広に役目を任されたのだ。本丸に残る仲間たちに主を託されたのだ。

僕は、太刀。燭台切光忠。刃生に懸けて、この幼き主を護ると改めて誓おう。


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