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PERFECT LOVER



会計流慰めのすすめ 

 休日だというのに珍しく書類を仕上げ、提出までして帰ってきている足取りは、軽い。いつも暇さえあれば遊びまわってギリギリまで溜める課題も昨日終えているし、おまけに部屋だって片づけたおかげで稀に見る綺麗さを誇る。そしてなにより、大事な仕事もたった今やり終えた。
 なにもかもが自分らしからぬ早さで終わっている。それもこれも、すべては今週末のデートの予定を悉くキャンセルされたせい……いや、おかげだった。デートのキャンセルによって時間ができたのだと考えると憂鬱でいっぱいな日になりそうなものだけれど、しかし懸念すべきことがすっきりなくなった今は、驚くほど綺麗に不満などなかった。ドタキャンされた直後はさすがに落ち込んだが、寧ろなんだか良いことがありそうな気さえする、そんな爽やかな午後だった。

 今日はこれからいったいなにをしようか。デートはないが、溜めていた仕事も課題もなにもない。課されていることがなにもないとは、こんなにも晴れやかな気分になるものなのか。十八年も生きてきて初めて知ったかのように感動しながら、彼、清水は廊下を進む。上機嫌に鼻歌を歌いながら、足取りが軽いせいでいつもより早く帰ってこられた生徒会室の扉をえいっと勢いよく開けた。
「ただいま僕らの生徒会室〜! ってあれ、会長?」
 一人だと思い込んでステップを踏むように入った生徒会室。気分よく大声でただいまを言った瞬間、しかしいるはずのない黒髪が目に入って。確か自分が書類を提出しにここを出た時は、誰もいなかったはずだ。それが、いつの間にか見慣れた男がソファにドカリと沈んでいる。もちろん休日であってもここに人がいること自体は別段不思議に思うことではないが、その人物が人物なだけに、清水は首を傾げた。
 自分と同じくらい休日に生徒会室にいるのが珍しいその男は、掛けられた声に気だるげ視線を動かす。その黒曜石のような瞳で清水を認めると、あからさまに面倒くさそうに小さくため息を吐いた。そうしてすぐに視線を外してしまう。
 自分がそういうキャラである自覚はあるが、その反応はさすがにちょっと失礼なんじゃないか。そう思いながらも清水はとりあえず近づくが、しかし男、黒川は反応を見せずにそのままソファの背もたれに頭を預けて黙り込んでしまった。いつもは必要以上の自信に満ちている彼が今はどこか小さくなっている気がして、清水はぱちりと瞬いた。
「会長?」
「んー……」
 もう一度呼びかけるも、返ってきたのは気の抜けた返事。これはいよいよ珍しい。眠そうなわけではなく、イライラしているわけでもない。ただ苛立つ気力さえなさそうな、この男には似つかわしくない反応。これはもしかしなくても、落ち込んでいる、ということではないか。

(後略)






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