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PERFECT LOVER



零れ話と恋の飯事 

三年の秋というものは何故だか虚無感と焦りを感じてしまう。中学生当時もそうだったが、高校生三年の現在も同様にそう感じていた。部活動も引退し学業に専念しなければならない時期であるが、まだ実感が持てていない生徒が大半で、突然やってきた暇な時間を持て余すものだ。とはいえ卒業も近いのでのんびりしてはいられない。
それは生徒会役員として務めてきた俺にとっても同じことが言えた。とはいえまだ新生徒会役員との引継ぎ期間中だったので、そう自由な時間が増えたわけではないが。しかしもう少しで責務から解放されるのだから、精神的に余裕が出来たというのは間違いなかった。
「会長好きです。付き合ってください」
不要書類の入った段ボールをゴミ置き場まで運んでいる途中、物陰から呼び止められて俺は固まった。
そうだ。忘れていたが、この時期はこれが増えるのだ。新生徒会役員へと大幅に親衛隊員も流れた今は、牽制する者も手薄になる。さらに俺達も、多忙な生活から解放され、放課後も仕事を早く切り上げて帰るし、日中はほぼ教室にいることが多くなる。なので、より生徒達にとって身近な存在へとなるらしい。
困ったなと思いながら、両手に抱えていた箱を床に置いて向かいなおった。この生徒には悪いが、告白を受けるつもりは全くもって俺には無いのである。

俺には長年片思いをしてきた相手がいる。
美しくて、儚くて、まるで真っ白な百合の花のような人だ。白い肌に、すらりと伸びる長い手足。高級な絹と見紛うばかりの艶やかな髪はうっとりする程で、俺は彼以上に美しい人を知らない。
―――というのはかれこれ小学生の頃からそっと胸の内に潜めていたことで、高校三年の今になるまで誰にも話したことがなかった事実であった。何故今この話をしたのかというと、先程告白してきた生徒があまりに鬼気として迫って来たので、どうにも優しい言葉だけでは断りきれず、仕方なしについ口にしてしまったことであるからだ。
軽い返しでは諦めてくれないだろうと、俺の片思い相手に対する長年の思いを簡潔に纏めて三十分ほど力説してやったので、最後には応援の言葉を頂いて別れたとも。本当はもう少し語ってやりたかったが、あの生徒の顔がだんだんとうんざりといった顔に変わってきたので、ハッとして口を閉ざしたところでターンエンドになった。
きっと今晩あたりから食堂で一気に噂が広まるだろうが、なに、もうあと数か月で卒業だ。少しぐらい騒がせたところで、俺の肩書は元会長という名の一般生徒だ。すぐに噂も静まるだろうし、好きな人の名前を口に出すつもりはない。

(後略)






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