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PERFECT LOVER



ドロドロ・はーとびーと 

「ここが過去の各報告書で、こっちが風紀から送られてくる調書の複製な。割と役に立つから何かあった時このあたり見ると大体どうにかなるぞ」
「はい」
「にしてもお前が生徒会長か。なるべくしてなったが半分、お前で大丈夫かって不安が半分ってとこだな」
「これでも支持率七十%以上の超人気者ですけど」
「そういうこと自分で言うから不安半分なんだよ。謙虚って言葉知ってるか?」
「さぁ」
 明後日の方向を向けばあからさまなため息が聞こえて、八柳(やなぎ)は眉間にしわを寄せた。
前生徒会長となる彼は気さくな人柄だが、八柳とは相性が悪く不愉快な感情を覚えることも度々あった。雑談を加えながらだらだらと引き継ぎを進められる現状も好きではない。
「以上ですか?」
「まぁ、そうだな」
「では今までご苦労様でした」
 頭を下げれば、片眉をつり上げた前生徒会長が腕を組んで踵を鳴らした。苛立っている時の癖だ。
 引き継ぎで何度か見かけたおかげでそれが彼の爆発前の警告だと気付いてからは、それ以上刺激しないように言葉を選ぶようにしている。
「俺も、会長のように人に尊敬されるような存在として今後努めたいと思います」
 先日彼と同じクラスの先輩から陰口を聞いたことは黙っていよう。
 続けて深く頭を下げ労いの意を示せば、気分が良くなったのか大袈裟に肩を叩かれた。出そうになった舌打ちは歯列をなぞることで堪える。
「大変だと思うが頑張れよ!」
「はい」
 終わったなら早く出ていけ、と何度も心中で繰り返していると、前生徒会長は数分自慢話を押し付けてから満足したのか最後に何度も大きく背中を叩いて去って行った。生徒会室がようやくその内装に相応しい静けさを取り戻す。
八柳は気配が消えたことを確認してから、イタリアンスタイルの豪壮な椅子に腰を下ろし大きく息を吐くと、背中を預けて苛立つままに靴を履いたままの足を机上に乗せた。行儀いいとは言えない姿勢でふてぶてしく舌打ちをしながら、彼が机に残した個人的な引き継ぎノートを開きもせずに傍のゴミ箱に押し込む。
「押しつけがましい、善人気取り、自分に都合のいい人間以外は皆素行不良。総合格闘技のアマチュア優勝者ってだけで周りを言いなりにさせてただけじゃねえか」
「聞こえてるよ。特に後半、声が大きくなってる」
 溜まった鬱憤を吐き出していると、扉がゆっくりと開いて穏やかな雰囲気の青年が入ってきた。左手に抱えたファイルを棚に戻しながら、八柳を見て困ったように笑う。

(後略)






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