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PERFECT LOVER



鳥籠遊戯 

くるりと周囲を見回す。
がやがやと騒がしい廊下は二限目が終った頃合いだからだろうか。
 誰も周りを気にする者はいない。もちろん、こちらも気配を殺して死角になるような場所ばかりを選んでいるからだろうが、まるで透明人間になったかのような錯覚に陥った。
 ――この学園の規模は島ひとつぶん。
 富裕層の考えることなど知りたくもないが、無人島だった地図にも載っていない島をまるまる買い取って、その上に巨大な学園をつくるなんて芸当、普通の感覚ではまず思い浮かべもしなければ、実現させようとも思わない。
 島にはひとつだけ船着き場がつくられ、校舎の屋上にはヘリポートがある。本土への移動手段は自力で家の自家用ヘリを呼ぶか、船をチャーターするか、週に一度依頼されてやってくる民間船に乗り込むかの三つしかない。基本的にこの学園は島の外に出ることを推奨してはいないので、島の中で生活の様々な必需品は手に入るし、娯楽も用意されていた。
 気配を殺して辿りついたのは、巨大な学園の北端に位置する教室だ。ここは常に空き教室になっていて、出入りする者は特定の許可を得たものだけ。徹底した箝口令を敷かれているこの教室は、一般の生徒はまずなんのための空き教室なのかも知らされていない。
 三回ノック、そしてもう二回ノック。合図を示せば教室のロックが解除される。監視カメラかなにかがあるのだろう。深くは考えたことはないが、この島全体が監獄のような高度のセキュリティを有しているのだから、当然といえば当然だった。
「生島多聞、参りました」
 いつもの口上を呟けば、中から間延びした声が応える。
「遅いよ、多聞ちゃん。なにしてたの」
 軽薄そうな表情を浮かべた相手は多聞よりもひとつ上、二年生の男子生徒だ。久々利彼方という名前の青年は、教室に乱雑に置かれた机に行儀悪く座って、多聞をじっと見つめている。
 久々利の視線には探るような色が浮かび、明らかに多聞が遅れた理由を知っているような雰囲気だ。
 多聞は曖昧な顔で肩を竦めた。
「いつもの王さまのワガママです。今回の件は相当、彼に精神的ダメージを食らわせたようだから」
 久々利はそれを聞いて、「まあ、そうだろうなぁ」と愉快そうに笑った。
「さすがの生徒会長さまも、今回のクーデターみたいな裏切り行為はこたえたと見える」
「生徒会長のメンタルケアも、一応僕たちの役目ではありますからね」
「多聞ちゃんは王さまに甘すぎんの。いくら分家筋で雇われてるからって、王さまのメンタルの面倒まで見ることないでしょ」
「――そうも言ってられませんから」
 再び肩を竦めてのたまう多聞に、久々利がまたしてもおかしそうに笑い声を発した。

(後略)






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