8月29日 “一巡目”日没

彼は丘の一角で、静かな眠りについていた。
奈良シカマル と刻まれた文字が、親友たちの供えたであろう色とりどりの花やお菓子に囲まれている。

私が余計なことをしたから、未来からシカマルくんがいなくなってしまった。
思い描いた理想の未来では、シカマルくんはアスマ先生や先輩たちとともに忍として活躍し、いつかきれいな奥さんをもらって家族をつくって、大往生。そんな幸せを彼から奪った、自分が犯した罪の大きさに、とてもじゃないけれど耐えられない。
何が未来を変えるだよ。こんなのただの人殺しじゃないか。


お墓の前で 止めどなく流れる涙をそのままにしていると、次第に日が傾き、空が赤く染まっていく。夕暮れは秋の匂いがした。
日没、誰かが共同墓地にやってきたと、夏草を踏みしめる足音で気付く。


「…シカマルくん?」

そんなはずないのに、無意識のうちに名前を呼んでいた。呼ばずにはいられなかったんだと思う。
火影の名が刺繍された羽織を翻しながら、その人は私のとなりに静かに腰を降ろした。

「わりぃってばよ。シカマルじゃなくて」


ナルトくんはやっぱり、この世界でも諦めずに夢を追っていた。
この里の長となった彼に、私は枯れた喉で、洗いざらい全てを打ち明け終える頃には、空は暗くなっていた。



「…正直話聞いてもピンとこねーな。けど、名前は名前だな!この木の葉の里でも、なんかむずかしー術の研究ばっかしてたしよ」

ナルトくんは難しい顔をして、うーんと唸りながら、励ましてくれてるのだろう、少しはにかんで見せてくれた。

待てよ…この世界に、もともといた私?
時空間の逆行のパラドックスだ。
私はアスマ先生の殉職した時空間線に生きていた対する“こっちの私”はシカマルくんの死に直面してる。いまの私が、幾重にも枝分かれしている時空間線を渡っていると仮定したら…もしかしたら、シカマルくんの死を変えるために、この“今”から再び過去に移動できる?

そうだよ。
もういっかい、過去に戻れれば。


「ナルトくん!私、もう一度試してみる!術で過去に戻ってやり直してみる!シカマルくんを元に戻す方法を…なんとしてでも!」

でも、どうしたらいいの?
シカマルくんに伝えたら、彼が身代わりになってしまった。アスマ先生に話したとしても、きっとアスマ先生はきっと自らの死を受け入れてしまうだろう。それじゃ未来は最初となにも変わらない。
そして、仮に五代目様へ暁の情報を報告できたとして、討伐班には別の小隊が派遣され、今度は別の誰かに被害が及ぶ恐れもある。

「…どうしたら…変えられるのかなあ……」

考えれば考えるほど、ごちゃごちゃに絡まっていく。またひとつ膝の上にこぼれ落ちる涙。

「簡単だってばよ、名前」

「え?」

「今の話、過去のオレに教えてくれ」

俯いていた顔をあげると、夕日に横顔を染められたナルトくんが、またはにかんでいて。
なんでだろう 笑ってる。

「あの時期さ、オレってばカカシ先生たちと新術の修行してたんだ。里の外れでシカマルの訃報を聞いて、なんとか新術完成させてよ。だから、名前は暁討伐隊が組まれるより前に戻って、修行中のオレに全部話してくれってばよ。オレが食い止めっから!」

「だめだよ!そんなことしたらナルトくんが…!」

「心配いらねーって。増援に行ったときはその新術で角都っつーヤツを倒してるし!もっと早く術完成させてやるってばよ。名前から情報貰えりゃ里の皆で作戦立てられるしな!」

「でも…」

「ぜってー、止めてみせる!なんたってオレは将来の火影なんだからな!仲間はぜってー、オレが守るってばよ」


何の迷いもないその笑顔は、既に覚悟を決めているようだった。
眩しい。ペインを説得して、忍界大戦でも大きく貢献した奇跡の少年。今は、最強の里長様。何度も壁にぶつかっては乗り越えて、そうして、どの世界だってその信念はきれいなままに、変わらない。


「名前はわかんねえかもしんねーけどさ、シカマルが死んで、今だってアイツがいなくなってぽっかり空いた穴は塞がらねぇんだ。オレだってシカマルを助けてえ。なぁ、名前だって助けてーんだろ!?」

「……うん…助けたい!」

こんなときにまた涙が溢れてきて。ナルトくんは片手を口元に寄せて、それだけちょっと心配そうに、照れ臭そうに質問してくる。



「あのさ、いっこ聞きてーんだけどさ。名前がいた世界って、誰が火影だったんだ?」

「…な、ナルトくんでした」

「だろ!?やっぱな!オレってばいっぺん決めたことは何があっても曲げねーんだ」

よっし、約束!だから信じろってばよ!

泣きべそをかく私の手を引っ張っり、ナルトくんは勢い良くゆびきりげんまんをした。
懐かしい気持ちになる約束の仕方。まるでこどもの頃に戻ったみたいに。
指先から伝わるあたたかさは、送られてくるチャクラのあたたかさだけじゃない。彼の太陽みたいな笑顔が、存在が、心に巣食う不安を振り払ってくれた。

- 5 / 10 -
▼back | | ▲next
top


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -