8月29日 “一巡目”午後

「どうだった!?過去に戻れたか!?」

見慣れた研究所の床へ盛大に尻餅をつくと、ゲンマさんたちが駆け寄ってきた。
術は成功したのか。過去に遡れたのかと。

暦の日付は8月29日。時計の針は実験開始から5分後を指している。ゲンマさんの問いかけに返答することなく、私は恐る恐る 問うた。

「…アスマ先生は…?」

「は?」

やっぱり、私が時間を遡行してシカマルくんに言伝てをした結果、私が知っていた未来から変化が生じている。今のゲンマさんたちは“前”の事情を知らないとすると。

「アスマ先生はどこにいますか?」

「アスマさんなら今日も任務じゃないか?」


なぜそんなことを聞くのかという3人のぽかんとした表情に、体が高揚感で包まれるのを感じた。




外の空気を吸ってくるとだけ3人に頭を下げ、研究所を飛び出す。表通りはいつもと変わりのない木の葉隠れの穏やかな夏空が広がっていて、照りつける日射しでさえまったく不快に感じない。
深く、深く息を吸い込んだ。
やったんだ。アスマ先生は生きてる。未来を変えることが出来たんだ。
暗闇からひなたに脱け出したような気持ちになって この喜びを思い切り走り回って叫びたい。だってこんなにいい日なんだもんね。けれど、ただでさえ前の時間とは違うんだ 注意しないと と頭に言い聞かせていても、いざ木の葉茶通りを歩いている友人を見つけたら、声をかけずにはいられなくて。


「あ…いのちゃん!チョウジくん!」

きれいな長い髪の、私の親友。そのとなりには、お菓子を抱えた盟友。にやけた顔のまま近付くと、チョウジくんが笑顔で応えてくれた。

「名前だ」

「アンタねえ、研究だとか言ってずっと顔見せないで!連絡くらい返しなさいよねー!」

「いひゃいいひゃい!ひのひゃん、ひゃなひれ!」

本気でつねられた頬、いたい、痛い。ああでも、痛いってことは、これは夢じゃないんだ!現実なんだ。

「いのちゃんとチョウジくんは、任務終わり?」

「そう。ちょうど帰って、丘に寄ってきたとこ。ったく面倒な任務押し付けられてばっかよ、今日帰れなかったら火影に抗議してやったのに」

「もうボクお腹ペコペコ…三人で飯屋行こうよ」

「アンタはいっつもそうなんだから」

頬を膨らませるいのちゃんに、思わず笑みが洩れる。特に変化は見られないけど、今のいのちゃんとチョウジくん、“前の未来”とどこか違うとことか、あるのかな。

「ねえ、今日はアスマ先生やシカマルくんは一緒じゃないの?」

当たり障りのないことから質問しようとすると、いのちゃんの顔からスッと表情が消えた。

「なによーびっくりするじゃない、冗談スベってるわよ名前」

「え?だってアスマ先生は……」

「シカマルの命日の次の日に、あんまりヒヤッとさせるようなボケかまさないでよねー!」




…え?


「でも…あっという間よね。つい昨日のことみたいなのに」

「そうだよねぇ。ボクさ、いつものベンチに行ったらシカマルがグーグー寝てるんじゃないかなって思うんだ」

「そうよねー。時間経つと返って実感なくなるわよね…って、どうしたの名前、雷に打たれたみたいな顔しちゃって。今日アンタちょっとヘンじゃない?」

「やっぱりお腹空いてるんだ、ボクお菓子のストックあるけど食う?」

「こらやめチョウジ!…でも、やっぱ変よ。顔色も悪いし汗もかいてるし。熱?」

「…ねえ、いのちゃん、」

「なに?」

「シカマルくん…今どこにいるの」


震える声を絞り出せば、今度こそ、いのちゃんの表情が歪み始めた。

「だからさ、気持ちはわかんないでもないけど、ホントどうしちゃったのよ名前。しっかりしなさいよ」

「ウソ、だって私きのう会ったよ?アスマ先生のお墓の前で会って、久しぶりだねって話して」

「いい加減にしてよ!」

ついにいのちゃんが怒鳴り声をあげた。木の葉通りの喧騒がやおら静まり、たくさんの視線が私たちに注がれる。
いのちゃんの目には、うっすらと涙の膜が張っていた。

「冗談でも言っていいことと悪いことがあるでしょ。ちょっとはこっちの気持ちも汲んでよ」

「いの、落ち着いて」

「みんなで気持ちに整理つけてきたはずでしょ!?ホントは私やチョウジだって…」

鼻を赤くするいのちゃんと、いのちゃんを宥めるチョウジくん。まるで ふたりが見えないガラスの透明な壁で仕切られているように遠くに感じた。

「こ、こんなのおかしいよ!なんでぇ…?なんでシカマルくんが…!?」

「名前もいのも 二人とも冷静になってよ」

「チョウジくんも冗談だって言ってよ!ねえ、“この”木の葉では何があったの!?」

「…シカマルは……死んだだろ。あの日暁に接触して、敵の術に…かかって…間に合わなかった」

ちがう。それはアスマ先生のことだよ。私は過去に行ってシカマルくんに全ての情報を伝えたんだよ。なのにシカマルくんが死ぬわけないじゃない。


「そうよ、間に合わなかった!私の医療忍術が力不足だったからシカマルは…名前、アンタはそれを言いたかったんでしょ」

「自分を責めないで、いの!シカマルはあのとき致命傷だったんだ。五代目にだって、誰にだって治すことはできなかったんだって!!」



「敵を倒す手がかりを探りながら戦って、アスマ先生は敵に血を採取されてひどい怪我をする。そして…こ、殺される。あなたはその場で……アスマ先生の最期を看取ることになる」
「ぜったい、大鎌の男とアスマ先生を戦わせないで」




私がシカマルくんにあんなこといったから、彼は先生の身代わりになろうとしたんだ。
私のせいだ。全部。
私がシカマルくんを殺したんだ。

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