8月10日 昔
旧型の中忍ベストを着込んだシカマルくんが、高台のベンチに寝そべり、片手に暁の報告資料を開いている。涙が出そうになった。やったんだ。遂に。
「な、いきなり現れてなんで泣いてんだよ!っつーか…名前だよな?」
慌てて体を起こす16歳のシカマルくん。突然現れた私に戸惑いの色を見せる彼が、昨日会った大人の彼に比べると、やっぱりどこか幼さが残っていて。
ここにいられる時間は長くない。短い時間で どうにか伝えないと。
「私だよ。普段とちょっと違うかもだけど…あのね、シカマルくんに聞いて欲しいことがあってきたの」
「なんだよ急に」
「お、落ち着いて聞いて欲しいの。私が何言ってるかわかんないかも知れないけど、その、でも信じて欲しくて」
「お前の方が落ち着けよ、めんどくせー。……つーか本当に名前か?やっぱ、なんか雰囲気違ェ」
「そんなこと今はいいから!お願い、聞いて」
スウと深呼吸して、何度も何度も頭の中で練習した説明を、早口で解放する。
「あなたは今後、暁討伐の任務に就いて暁の忍ふたりと接触する。報告にない忍で、シカマルくんが今持ってる資料にも載ってない。どっちも不死身。首を切断しても全然びくともしない男たちなの。一人は大きな鎌を持ってて、ターゲットの血を自らの体内に取り入れて、自分が受けた怪我をターゲットにも与えることができる。もう一人は身体に心臓を四つも持っていて、火遁とか雷遁とか、それぞれの心臓の持ち主に応じた性質変化が使える。心臓全てを潰さないと倒せない」
呼吸が苦しくなって一息つくと、シカマルくんが眉根を寄せているのが見えた。
高台のベンチに、屋根の影が色濃く落ちる。
「とにかく化け物みたいな奴らなの!特に呪いをかける方は 一度標的にされたらまず生きて帰れない。シカマルくんはそういう敵と当たる」
「訳がわかんねえよ」
シカマルくんは呟いて、明らかに警戒した眼差しをこちらに向けた。
「不死身とか呪いとか あるわけねえだろ。大体、極秘資料にねェ情報をなんで正規部隊じゃねえお前が知ってんだ」
シカマルくんはそう言って、片手を僅かにクナイポーチに近づけた。
鋭い彼なら尚更にこの反応は折り込み済だ。真実を語れば語るほどに、まともに取り合ってもらえないだろう。暁の刺客と疑われるだけだって。それでもこうするしかないんだと 私は両手をあげて無抵抗の意思を示しながら話を続けた。
「ごめんね、いきなり。…私、未来から来たの」
「未来?」
「私が…つまりこの時代の私もなんだけど、科学忍術研究班で時を渡る忍術を極秘で開発してるの。その忍術が未来で完成して、私がこの時代に来た」
「んな話、信じられっかよ」
「その気持ちはよくわかる。でもお願い。信じて」
もう時間が無かった。どうしよう、こんなじゃ事態の改善策まで伝えられない。火影様との約束を破ってまでこうしてるのに。
仕方ない。もう本当のことを話すしか。
「実はその任務で…アスマ先生が死ぬ」
「!?」
「敵を倒す手がかりを探りながら戦って、アスマ先生は敵に血を採取されてひどい怪我をする。そして…こ、殺される。あなたはその場で……アスマ先生の最期を看取ることになる」
「…アスマが?」
「殉職する。紅先生とお子さんを残して。シカマルくん、紅先生のお腹の中にはね、赤ちゃんがいるの。私の話が信じられないなら、二人のところにいって確認して。他の誰にもまだ伝えていないはずだから」
「…」
「お願い。アスマ先生に死んでほしくない。それに…シカマルくんが苦しむ姿をみたくないの。私は未来がそうなってほしくない!だからどうか、」
タイムリミットだった。
足元に法陣がじわじわと浮かび上がってきてる。私は“未来”に引き戻される。シカマルくんもこの異変に気づいたのか、私から目をそらさずに一歩下がった。
「ぜったい、大鎌の男とアスマ先生を戦わせないで」
両目から溢れる涙で視界が揺らぐ。体が引っ張られるような感覚に襲われ、私はそのまま目を閉じた。
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