あの日、シカマルくんに恋をした。ぶっきらぼうな目でもやさしい言葉、態度。長い片思いだった。遠くからずっと、憧れだけ募らせて。憧れそのもの、でもあって。臆病な心が生んだ、長い長い独りよがりだった。

アスマ先生を目の前で亡くして悲しむシカマルくんなんて見たくないと思った。きっとアカデミー生の私だって、好きな人のためなら、同じ決心をするはずだと。未来の私は過去の私に死ねと命じるつもりだった。他の誰をも犠牲にしないよう私は私を身代わりにして、いい物語として締めくくりたかった。

それでも、シカマルくんは私を見つけて、すくいあげてくれた。生きろって、あなたが教えてくれたんだ。どんな未来が待ってても懸命に生きよう。何が起きても。



私は今に帰ってきた。
何もかえずに、帰ってきた。




繁華街の町は今日も賑やかだ。
ねえお母さんお昼ご飯なあに?昨日の任務でオレ、ヘマしちゃってさあ、散々怒られたわ。あ、あの雑誌今日発売だ!
いろんな未来を見た私には、町のそこらから聞こえてくるそんな会話にも、ああしあわせだな、と思うのだ。毎日を毎日とおりに暮らせることに。

とりとめのない会話を楽しみながら歩いていると、私の耳が聞きなれた声を拾った。

「シカマルせんせー、今日の任務帰り、焼肉いこーよー!」

「焼肉は一昨日行ったばっかでしょ、今日はスイーツバイキング!」

「えっまじシカマル先生の奢り!?」

「バッカ、どっちも奢らねぇよ、めんどくせー」

前からシカマルくんと下忍の子たちが歩いてくるのが見えた。いつもの、シカマルくんだった。

「し、シカマルくん!」



私は反射的に声をかけた。私に気づいたシカマルくんは、教え子たちを先に門に向かうよう指示を出し、任務前に私と話す時間をつくってくれた。


「よう、名前。朝に実験するんじゃなかったのかよ?」

「えっ?」

「綱手様が富くじ当選してなかったって、荒れてたぜ。失敗したのか?」

しまった。そうか、私は今日、時空間忍術の実験をする予定だったんだ。過去を何も変えなかったということは、シカマルくんは何も知らない。シカマルくんが私を助けたことも、なかったことなのだ。
そういえば、綱手様に富くじの結果を教えようって話していたんだっけ。昨日のことなのに、なんだか大昔のことみたいだった。


「その…し、失敗しちゃったの。色々考えて、もう研究も打ち切りにしようと思うの。」

「そうか。いいのかよ?あきらめて」

「うん。今までの研究は、私の独りよがりだったんだって気づいたの。」

「独りよがり?」

私は怖くて、気がつけば過去ばかりを見ていた。あなたはとっくに前を向いて歩き出していた。

私は過去に戻らなくても、あなたに近づくことができる。その方法を知っている。あなたがくれた勇気を無駄にしないから。


ねえシカマルくん。私、未来、かえてもいいかな。


「…あのね、シカマルくん。突然なんだけど…シカマルくんのことが、ずっと、好きです」



私はあなたを求めて、私は私のちからであなたに会いに行く。

そしていつか、あなたの力になりたい。

8月30日
今日は私が、あなたへと一歩を踏み出したはじまりの日です。

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