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小さなころの素朴な疑問。空を見上げておもうこと。なんで空は青いのか。
幼いこどもにありがちな宇宙なみに無限の「なんで」を解き明かしたくて、シカマルはまず母親に聞いてみた。なんで空は青いの。なんでかしらねえ。はぐらかされた。次に父親に聞いてみた。なんでだろうなあ。またはぐらかされた。
ひらがなが読めるようになったころ、しかたがないので本を開いたのが、はじまりだった。
最初は漢字かな混じりにてこずったものの、数時間後にはだいたいの漢字を覚え、シカマルは簡単に理論を理解してしまった。
本を読み終えて、シカマルは自分とおなじ疑問をもつであろう同い年のこどもたちに教えに行った。空があおい理由は。うみがしょっぱい理由は。しかし話し終えると、他のこどもたちは皆ぽかんとした表情をしていて、おまえなにいってんだ、いみわかんねーよとシカマルをからかった。それからシカマルはおにごっこに混ざらなくなった。
それでもまだ本が好きだったシカマルは、ある日間違えて父親の本を読んで、中にあったクイズをたまたま解いてみた。それがどうやらどんな数学者も解いたことのないなんとかの数式とやらで、シカクとヨシノがうまくシカマルを隠さなかったら、いまごろめんどくさくなってただろう。ということをシカマルは知らない。それでも、自分がやったことに幼心ながらき気づいて、それからはぜんぶのことをめんどくさがるようになった。めんどくさい、は便利だ。大袈裟にいえば拒絶と逃避であるのに、そうは聞こえないから。
つまりは、だいたいぜんぶをめんどくさがりたいのだ。
むし暑い不快な室温によって目が覚めた。めんどくさい。今日もそんな風に、寝坊して。遅刻して。急ぐ気も失せてだらだらと高校に向かう。もう2限おわってっかな。確かカカシ先生だ。シカマルは進路希望をまだ出していない。反抗期じゃあるまいし、バカみてえだ。シカマルもそう思う。志望校なんて、適当に書いて適当に勉強して適当に受けりゃいい。将来の職業だって、無難にサラリーマンとか書いておけばいい。本気だして勉強するほど自分は真面目じゃない。
本当は。
歩いてあると、正門から出てきた生徒と鉢合わせする。ぶつかりそうになったのは、屋上でみた教室でみたあの彼女だった。あ。また目が合う。
「…よう」
「奈良くん」
話しかけられたのははじめて。自分の名字を知られてることに驚いた。いや、クラスメイトだし、名字くらいは知ってるか。
「早退か?」
特にこれといって話題も見当たらないシカマルが適当な質問を投げ掛けると、彼女は答えもせずにこう言った。
「海ってどっち?」
海?
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