▼02


窓側一列目二番目の席から彼女はまた空を見ている。全開の窓から勢いよく風が入ってきて、うすい夏服をふくらませた。白いシャツ。下着のラインが見えたような気がして、シカマルは彼女から目をそらす。昼休みのうるさい教室で彼女のまわりだけ無音の世界に見えた。

彼女とはたしか2年のときも同じクラスだった、けど記憶がない。たぶん話したことがないのだ。それすらあいまい。プリントを手渡すとか、すれ違うとか、それくらい。名字はたしか知ってる、と思う。下の名前なんだっけ。
屋上の日以後のシカマルの観察では、彼女はうるさいわけでも大人しいわけでもなく、本当にふつうだった。女友達と一緒にいることもあるし、授業中頭がこっくりこっくり傾いていることもある。ちょっと不思議要素が混じってるらしいが、別に大した特徴もない。なのに突然どこか遠くにいるようにシカマルには見えた。今みたいに。屋上のときみたいに。

一体あそこで何をしてたのか。突っ立って風に吹かれて。単にぼうっとしていただけか。シカマルは窓側三列目四番目の席からなんなくそとを、彼女を見ていた。今の席は真ん中に近くて窮屈で、その上今日はどこかの地域で既に最高気温39度を記録した猛暑日で、暑さにもっぱら弱いシカマルはほとんど動きを見せなかった。



「ちょっとシカマル生きてるー?」

ばんと机の端を叩かれて、シカマルはようやく頭を上げた。山中いのは制服のスカートをこれ見よがしに短く捲っている。女の幼なじみなんて完全に姉いもうとの感覚で、そんな足を見せられてるこっちの身にもなって欲しい。



「何だらけてんのよ!アンタ先生との面談今日でしょー?」


あ、忘れった。






「こーいうのは急かして決まるもんじゃないけど、もいい加減もう夏だしなあ」


サクラなんて推薦決まっちゃったしなあ。カカシ先生がシカマルの遅刻を怒らなかったのは、彼自身が授業開始時刻に間に合った試しのない教師だからだ。いろんな道具で無造作に築かれたカカシ先生の城。


シカマルの目の前には先週提出した進路希望の用紙。志望先を書く3つの欄は、全部まっしろである。



「賢いやつはいつか見切りをつけれるもんだから、心配はないんだけどね。お前だけじゃないのよ、進路希望出してないの」


カカシ先生は困ったもんだとため息をついて、懐から文庫本を取り出した。エロ本である。
賢いという言葉にシカマルは眉を寄せる。あまりすきな単語ではない。



「お前の場合ちょっと違うとこでひっかかってんじゃない」



カカシ先生はいつものやる気のない目でしばらくシカマルを見たあと、もう今日は戻っていーよと言った。シカマルがしつれーしましたと準備室のドアに手をかけるときに、カカシ先生はエロ本片手に呟く。


「ま、別にオレじゃなくても、アスマとかでもいいからさ、何かあったら言ってちょーだいよ」

教師の特権だろうか。化学準備室がこんなに涼しいならもっと早く来れば良かった。

(隠された世界と繋ぐ、)

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