東京都心のドまんなかだというのに見たまえ、この満天の星空を!黒い夜空に宝石を散らしたようにきらめいているじゃないか!
こんな清々しい夜は“バー美咲”であかりさんと祝杯を交わしたいがしかし!!今日行く所はあかりすゎんのお店はないのだッ!
「勝ったあああッ!!こんばんは、お邪魔します師匠!!」
師匠のお宅の敷居を跨ぐと「お前は静かに入ってこれねえのか!」間髪入れずに叱咤が飛んでくる。すいませんスイマセン師匠 今日はお赦しを!
襖に手をかけ、師匠とブイエスしてる望月目掛けて叫んだ。
「望月っ見てた!?見てた!?オレの勇姿!」
するとかわいい妹弟子は ぱあっとあかるい笑顔を咲かせる。
「はい、伸び伸びとした攻めで素晴らしかったです!」
「だよね!いやぁ我ながらさ、今日は文句ナシの完勝!4六銀から、も、まさに完封っ!てカンジだったっしょ!痺れたっしょっ!?」
「はいっ」
「浮かれすぎるなよ一砂、それでもお前プロかっ」
「まあまあ師匠」
ホント、あっぱれな勝利!山形のじいちゃんにもみせたかったな。これがMNK杯だったなら…いや来年こそは必ずね!待ってろよ桐山、お前にだって次は勝ってやるぞ!
「順位戦で一砂さんが生き生きと指してるご様子、目に浮かぶようでした」
駒に手を伸ばしながらくすくす笑うオレの妹弟子。も、目にいれてもいたくないくらい、かわいいのなんのって!あかりさんはやっぱり格別だけど癒されるよね うん!
「雫 おまえさんもおだてんな。調子づいちゃうだろ」
「いやいやそこは師匠〜!スミスもなんか一言いってくれたまえ…ってあれ?」
スミスに話題を振ろうと思ったのに、奴の定位置である奥側の将棋盤にヤツの姿がない。おかしいな、暇さえあれば師匠んちにあがりこんでるのに……
「あれ?スミスは?」
「今日も来ないんだとよ。なんでも病院の付き添いだとか」
「病院?だれの?」
「さあな。このところ付き合い悪いのは確かだがな」
「そういえば対局後の飲みも断るし、最近しょっちゅうケータイ見ながらニヤニヤしてるような………はっ!スミスの奴さては」
オレが小指をス と立てて言うと、師匠もハッとして無言で笑みを浮かべる。
「同棲か!?まったく若いモンは…スミスもスミにおけん…なんつって、スベったかこりゃ」
アッハッハ
ビミョーなオヤジギャグに師匠とふたり笑っていると、びきィィと不吉な音。
方向を目で辿れば、念仏でも唱えてそうな表情の望月と、ビフォー・アフターして粉々になってる陶器の破片が。
「望月…えっ?それ湯飲みだよね…?師匠お気にの湯飲みだよね!?」
「ワシの古伊万里の湯飲みがああああっ!」
「すすすみません師匠!わたしなんてことを…あっ、熱っ」
「ちょっ、望月しっかりっ!?」
松本一砂五段痛恨のミス
あれ、オレなんかまずいこと言ったかな?
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