包囲するように後ろから抱き締めて、雫が俺の想像より遥かに華奢だと知る。あったかいし、シャンプーかな これ、いい香りがする。斜めに見下ろす頬や耳がりんごみたく真っ赤になっていて、つい、からかってみたくもなったりして。

「スミスさん!?は、離してくださいっ」

「いやだね」

拒んだりしないんだよな。

「誤解がとけるまで離してやらん」

「だって…島田さんが教えてくれたんです。スミスさんの好きな人は…」

「俺が好きな人は?」

「け、研究会がいっしょで、よく一緒にいて、よく笑う方で、スミスさんが世話を焼いてるひとだって……それって一砂さんじゃないんですか?」

「だぁああもう!!なぁ どこをどう検討したらそーなんの!?」

「でも」

「俺は女の子が好きです。いっちゃんといい雫さんといい、そこんとこよーく理解してくれよホント」

他の誰に勘違いされたって構わんけど、お前だけには勘弁だかんな。
回す腕の力を少し強めて、目の前の彼女の肩に額を乗せる。一瞬びくっとした彼女に、伝わるように、はっきり告げた。

「俺が好きなのは雫だ。いっちゃんじゃなくて」


「…わたし?」

目線をあげると、雫の涙は止まっていた。
「そんなのって…」と呟いて、今度は彼女が頭を垂らした。告白のインパクトなのか、自分の誤解がずいぶん恥ずかしいものだと自覚したのか、まあ、両方だろうなぁ。雫はますます赤くなり、両手で顔を覆う。うう、だかあああ、だか、声にならないちいさな奇声をあげて、目尻に涙を浮かべていた。
俺が雫を泣かせたのは今日が初めてじゃないだろう。まずはこれまで泣かせた分、今日は非難の罵倒でもビンタでもなんでも、存分に受けよう。

「俺もう逃げないから。だからさ、雫も話してくんない?思ってること、気が済むまで話してくれよ」

そんで一緒に考えよう。これからうまくやってけるように。

「俺も偉そうに言えたモンじゃねえけどさ、雫が納得行くところに辿り着くまで、いくらでも待つから」

だからいつか。いつまでかかってでもいいからそのときは、お前のこと 恋人と呼ばせて欲しい。
なんたって、これから持ち時間はたっぷりあるんだ。

「…スミスさん」

「ん?」

「あの、さっきから…その、わたしの名前…」

「だめ?名前で呼ぶの」

「…」

「ずーっと呼びたかった。お前のこと 名字じゃなくて名前でさ」

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