カランカラン 腕にひっ提げたビニール袋の中のネコ缶は、ほの明るいマンションの階段にやけに大きく響く。
片腕には猫。知らんかった 子猫ってこんな頼りないいきものなんだな。チビだし震えてるし、鳴き声なんていかにもか弱いって感じだ。それなのに 雪の降る寒空の下を耐えた挙げ句、今もこうしてあらんかぎりの力で人間の腕から逃れようともがいたりするのだ。いったいぜんたい、弱っちいんだか逞しいんだか。
おいおい子猫よ。そんなに怖がんなくても、お兄さんはひっどいことしませんよ。

みゃあ、みゃあっ

よもやのCコース、不平の(鳴き)声。どうやらこいつは俺を慰めてくれないらしい。やっぱキャバクラコース選べば良かったか?こちとらさっきまで格上の棋士相手に粘ってたんだ。多目に見ておくれよ。

みゃああ

「はいはい 部屋に着きましたよー……っと?」


自室のすぐ前までたどり着くと、ドアノブに、覚えのない紙袋が引っかけてある。子猫を片っ方の腕で抱きしめ(その拍子にひどくひっかかれた)、提げられた荷物の中身を覗き見る。およそ26歳の男には似合わない、きれいめの弁当箱。ふわりと砂糖醤油の匂いがたちこめて、今更になって空腹を思い出す。将棋の内容で気が気じゃなくて、夕食休憩中もロクに手につかなかったもんな。
片腕に猫。もう片腕に弁当箱。どっちもじんわり温かい。今日の重くて暗くて苦い一局と正反対の温度感。


対局おつかれさまです。
肉じゃがを作りすぎてしまいました。
良かったらどうぞ。

望月



「…来てたのか」


肉じゃがの作り主は、わざわざこの夜更けに届けに来たらしい。
すまねーなあ とは感じたけども、鉢合わせしないで済んでよかったとか安心してるって、残酷だよな。


三角龍雪六段と子猫の夜



捨て猫 子猫 拾ったら。
こんなとき、ググってすぐに対処法が見つかるのはありがたいよな。
お湯入りペットボトルにタオルを巻いて、あんか代わりに段ボール箱へイン。その上にも古い毛布とタオルをありったけ詰めて、即席の寝床の完成。ぬるめのミルクを皿にあけると、ちびっこい子猫はそれを勢いよく平らげてしまった。腹減ってたよなぁ。食ったらちょっとは落ち着くか?誰もかれも、生きるのに必死だよ。こんな真冬の夜には。

警戒心の強い居候が微睡む頃には、弁当箱はだいぶ冷えちまってて。やや迷いつつ、蓋についたタレを指でペロリと舐める。少し濃いめの、あまじょっぱさ。

「…うま」

猫がびっくりちまうかもだけど、やっぱレンチンして食おうと、弁当箱を抱えてキッチンへ向かう。
ため息はいつの間にか消えていた。
さあ、あのミーミー泣きじゃくるヤツにはいったいなんて名前をつけようか。

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