シカマルが生まれた日について知りてェ?
はい。どんな日だったのかなって。おじさまは出産に立ち会ったの?
オレは任務で里外に出てたんだが、全然心配しなかったな。そういうのは母ちゃんに任せとくのが一番だからよォ。里に戻ってみりゃ想像以上にあっさりと、とっくに生まれててだな…。
へえ…。
泣くのもめんどくせーって感じの、赤ん坊らしくねえ変な赤ん坊だったな。
男の子だって知ったのもそのとき?
ああ。女の子なら大変だったろうなァ。男は楽だが。
何で男の子だと楽なんです?
いのいちんトコみてりゃ判るさ。父親ってのは娘を甘やかしちまうからな。その点男の子ならほっといても、勝手にオレ似のいい男になるだろ?
……。
お酒をしこたま呑んで酔っ払うとおじさまはさらに饒舌になって、挙げ句の果てに 山中さん家の子とどっちが先か賭けてたとか、聞いてないことまで語り出していた。
後々になって懐かしい話を持ち出してみれば、「そんなのウソばっかりよ」とおばさまは笑っていた。
「心配してなかったなんて冗談もいいとこ。あの人ったら、任務地から飛んで帰ってきて泣いて笑っての大喜びだった」
「おじさまが?」
「ええ。嬉し泣きして深酒するわ、首も据わってないシカマルを抱えて一族の家中歩き回るわ、やれ名前はどれにするだの もううるさいのなんのってね」
こうしてシカクおじさまのクール神話は見事破り去られ、いのいちさんとそう大差ない親バカぶりが露見する。
猪鹿蝶の親父様たちは、結局のところ みんな揃って子煩悩なのでした。
「産んだときはそりゃあ痛かったけど、あの子はそんなに時間がかからなくて、いつの間にか生まれてたって感じだったかしら。寝顔が父ちゃんそっくりでね、おかしくって」
懐かしむおばさまの 眉根を寄せてくつくつ笑う仕草こそ、シカマルにはしっかり受け継がれていると その時私はひっそり確信していた。
「…どんな気持ちでした?」
「そうねえ…めんどくさがりでも何でもいいから、とにかく元気に育ってほしいってね。あの御時世だから余計にそう…そのためなら何でもできるって、強くなれた気がしたわ」
「成る程な」
私の話を聞いたシカマルは、あのときのおかあさんと同じ仕草でくつくつと笑った。
「母ちゃんが最強になっちまったのはオレが原因だったってことかよ…めんどくさがりでもいいって割りにはガミガミ厳しく躾られた気がすんだけどよ」
幼少時代を振り返り、シカマルは懐かしむように目を細めた。
広い背中を見せて歩き続けた父。そして永久不滅の母による惜しみ無い努力によって、アカデミーのドベを競っていた面倒臭がり屋の奈良シカマルは今や六代目の若き補佐役にまで昇り詰めた。
「母は強し、かな」
「同じ道理でいくとお前も既にその類いってわけだ」
「その類いって、人を怪獣みたいに言わないでよ」
ほかならぬ二人の愛が 火影にもなれると称される器量を育てたのだった。
しかしシカマルは地位を望まず 影を支える影になる。
陽のまぶしく当たる矢面には立とうとしない、縁の下の力持ちだ。
そういうところが好きだ。
「父ちゃん!誕生日おめでとー!」
もう何十回目かの誕生日祝い。私はこどもたちと一緒に野原に向かい、色とりどりの花冠を作った。
強面髭面の中年の頭に、小さくてカラフルぼんぼりが幾つもついた花冠は驚くほど不釣り合い。
笑いが止まらなくなった。ええもちろん、私たち確信犯ですよ。
「ありがとな」
「父ちゃん、それ、せんにちこうってんだぜ」
「千日紅か」
「父ちゃんの誕生日のお花だよ!今日1日つけてお仕事してね!」
「それはちょっとな…」
あなたが少しでも長生きできますように。楽しく笑って暮らせますように。
あなたのお父さんやお母さんが注いだ愛は、これからも色褪せぬ想い。
そして永遠の願い。
この花冠は永遠の証です。
これからも引き継いでいきましょう。
「シカマル、誕生日おめでとう」
ありがとう。
これから毎年、また何度もあなたにおめでとうって言える、そしてあなたが照れ臭そうにはにかんでくれる。
それだけで信じられないくらい幸せです。
千日紅の花冠