一年にきっかり一度、その日は律儀に訪れる。忍である以上は特別な日も例外なしに任務が入るし、里の外の任務地で「あ そういえば今日オレの誕生日だったっけ」と迎えることもしばしば。
じゃあ今年はどうかというと、奇妙な通達が火影邸から送られてきた。
“極秘任務が入った。召集までしばし自室待機のこと”
人のこと言えたクチじゃないが、五代目のアバウト加減には困ったもんだよ。
極秘任務を推し量るのは無駄骨だし、大人しく待機する他ない。オレはベッドに腰かけてイチャイチャタクティクスを開いた。
開いてみた。
文字を追い始めたものの、どーも気が散る。普段なら時間も忘れて読み耽るのに、今日は日捲りカレンダーの15という数字に頭中を引っ掻き回されてちっとも没入できなくて。ものの数分で本棚に戻してしまう。
「…9月15日ねえ…」
まだ昼時にもなってないんじゃあ、早々に16日のページへは捲れないな。
火影の連絡鳥は優秀なんだから、よくよく考えたら自宅待機するまでもなく、里のどこに居たって同じでしょ 気分転換に外へと繰り出すと、さっそく馴染みの顔が見えた。山のような荷箱を抱えたナルトとヤマトが、木ノ葉大通りを中心部に向かって歩いてる。
「よ、ナルト」
「げ!カカシ先生ェ!」
人の顔見るなりげってなによ、げって。
「任務?」聞けば、
「雑用みたいなものですけどね」ヤマトが苦笑する。
「終わったら昼メシどう?一楽とかさ」
「一楽!」聞き付けてナルトはパッと顔を輝かせるが、すぐにばつが悪そうな表情に戻った。
「カカシ先生、お、オレってば、他にも色々残ってんだってばよ!任務放棄するわけにはいかねーし!」
これは珍しい。一楽に釣られなかったことなんてなかったのに、ナルトがラーメンより雑用を優先させるなんて、今日は雨でも降るのか?ヤマトも、お前 いつにも増して目怖いんだけど 何かあったの。
「まだ任務が残ってますので…ではカカシ先輩、失礼します」
あらら、断られちゃった。
日頃勝負をふっかけてくるガイの姿も見えないし、こういう日に限って 皆が皆任務で追われてる。どこでもそう。
「サクラ、兵糧丸を一袋…」木ノ葉病院を訪れても、
「悪いんですけどこれから医療班で極秘研究なんで。部外者は立ち入り禁止っ!」
とか。
「サイも任務中?」
「はい。なんでも口外したらボクの舌が引っこ抜かれるそうです」
とか。ま、サイに限っては舌を抜かれるって言うレベルだ。根の仕事かもしれない。
ちょーっとさみしい気もするけど、オレの手を離れてナルトたちが里のため邁進してるのは、皆大人になった証拠でもある。
あと一人、ホントは一番に声をかけたいやつがいるけれど、多分彼女も今頃は仕事の真っ最中だろう。邪魔するわけにはいかないな。
オレの足は、気付けばいつもの場所へと向かっていた。
誕生日の報告をしたい人がまだ何人かいるんだ。
*
真昼の慰霊碑に人影はなく、すすきがそよそよと秋風に吹かれていた。
やっぱここに来ちゃうんだよね。
「ま…オレもすっかりいい歳したオッサンになっちゃったよ」
「カカシ、誕生日おめでとう!」
先生の影響か、ミナト班は何かにつけて祝い事をするのが好きだった。こと リンは仲間を祝うことには並々ならぬ手間を費やしていて、誕生日はおろか中忍合格や上忍合格のたび、数えきれない“おめでとう”が用意されてたっけ。
「勘違いすんなよ!リンがお祝いしたいって言うから、しかたなく祝ってやってんだからな!」
やめろよオビト、お前はいつも一言多いの。余計に恥ずかしくなるだろって、あの頃は思ってた。
少年のまま、少女のまま、歳を取らない二人。対し、三十路に突入したオッサンが――しかも時間にルーズなこのオレが自分の誕生日を把握してるのは、自ら進んでそうなったわけじゃない。お前たちのせいでしょ。
そしてあと少しもすれば父さんの歳に並び、越えるんだ。月日ってのはホントに――――
「カカシ先生!」
感傷的な追想を妨げるかのように、ふいに背後から名前を呼ばれた。
声の主が誰か判らないはずがない。
「…シズクか」
「やっぱりここにいた!もう!自宅待機の命令破ってほっつき歩かないでよ先生!」
シズクは捲し立てるように文句をつきつけ、ずんずんと大股で慰霊碑まで来ると オレの手を掴んで踵を返した。
「任務の召集かかってますよ!」
「あれ、お前も隊員なの?」
「勿論です。今日は総動員だから、早く行かないとみんな怒ってるよ」
極秘任務に総動員?そんなおかしな話があるだろうか。
シズクに質してもひた走るだけで答えは返ってこず、火影邸の目前まで駆け付けた。やがてもうもうと昇る炭火の煙が目に飛び込んできた頃に、オレはようやく真相を知ることになる。
「カカシ先生おっそ〜い!」
「遅刻だってばよ!」
「カカシ先輩、遅いから第一陣焦げちゃってますよ」
「え?」
ナルトたちが囲む七輪の上にはサンマ。塩焼きの香ばしい匂いが立ち込めている。
「やっと主賓が来たな!」第7班以外にも8班10班ガイ班、特別上忍たち、果てには火影様までジョッキ片手にスタンバイしていた。って、もう呑んでるし。
「よーし 乾杯だァ!!せーの、」
「カカシ先生、誕生日おめでと〜!!」
「祝・三十路突入〜!!」
「あの…任務は?」
「任務?ああ、アレだよ」
五代目はしたり顔して顎でしゃくる。視線の先は、超特大ケーキを持つシズクの姿。満面の笑みでオレの目前に迫ってくる。あ 成る程。木ノ葉病院でやたら甘ったるい匂いがしたと思ったら、正体はこれだったのね。
「ほったらかしにしててごめんね、先生」
「イヤ…ま、それはいいんだけど…」
「ハイ、これ!今日はお祝いされるのが任務だよ」
オレが甘いもの得意じゃないって判ってて、敢えてケーキなのね。
シズクの後ろでは、
「みんなァパイ投げはじまるってばよ!」「叩きつけちゃえシズクー!」「マスクおろせ!おろせ!」ひどいコールが鳴りやまない。
それパイじゃなくてバースデーケーキでしょ。お前らホントにオレを祝う気あるの?
「避けたら任務失敗だぞ〜カカシ!」
すでにサンマを肴に酔っ払ってる五代目の野次まで飛んできた。ちょっと あのコール本気なんですか。シズク、お前もお前でなんで乗り気なの。
あまりに悪意有り余る人選だと思わない?オレが彼女に逆らえないのを知ってるんだ。
「というわけで先生、御免!!お覚悟!!!」
シズクの手からケーキが離れた瞬間、オレは思った。
今 このケーキを写輪眼で見切ってかわすことは容易い。けど、ここでオレが避けたらケーキは台無し。興醒めだ。
もしかしたら誕生日祝いは、その昔父さんや皆がしてくれてたみたいに、来年も再来年も永遠みたいに続いてく任務なんじゃないか。できるなら、来年もこうしていたい。
こんな祝い方は金輪際ゴメンだけど、甘んじて受けようじゃないの。こっちにだって考えがある。
ケーキまみれになったら、正面にいるシズクを抱き締める。
すぐ瞬身しよう。素顔を見せるのは彼女の前でだけ。
そして口説き落とすんだ。
「来年は二人っきりでどう?」とか砂糖を吐くほど甘いキスのひとつでもしてさ。え?生クリームプレイだって?悪いよしてよ。オレはそこまで変態じゃなーいよ。
こんなの永遠に決まってる
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shibawanko様リクエスト、【お誕生日サプライズに気付かず、みんなの反応に悩むカカシ先生】でした。shibawanko様、リクエスト頂き 誠にありがとうございました。