チュンチュン 雀の鳴き出す時間。おかあさんは旅行カバン片手にお忍びで出ていった。

「火の国温泉巡り?」

「そう。猪鹿蝶お母さん連合でしばらく出掛けてくるから。私がいない間たっぷり新婚さん気分を味わいなさいね」

おかあさんの足取りがあまりにも軽くて、おかげで肝心なことを聞きそびれてしまったの。

新婚さん気分。

ねぇおかあさん、“同居人”から“嫁”に移行して 月浦シズクから奈良シズクになり 何がどうという変化もないわけですが、 新婚さんとは具体的に何をするのですか。



「何それノロケ?」
真っ先に相談したサクラは、あからさまに嫌な顔をする。

「ノロケないでよー」
いのもまともに取り合ってくれない。

「ノロケだってばよシズク」
まさかナルトにまであしらわれるとは思ってなかった。

「エプロンつけて“ご飯にする?お風呂にする?それともワ・タ・シ?”だろ」
キバ それはネタが古いし、第一その三択だとシカマルは私じゃなくて風呂を選ぶから有効な手とは思えないな。

「その悩みならいい本があるよ」
サイがアドバイス代わりに一冊の結婚情報誌を取り出すものだから、思わず目を丸くする。
「ゼク○ィ読んでるの?」「いのが何故かくれるんだ」
さすが、恋愛に関してはシカマルに負けず劣らずの策略家・いの様!ここは一先ずおこぼれにあずかることにしよう。






「フムフム なかなかどうして新妻の心得というものは奥が深いのね」

お風呂はピカピカに磨いた。
魚もよく焼けてきたしお味噌汁もいい塩梅。
あとはシカマルの帰りを待つだけになって 私はサイに借りた結婚情報紙を丹念に目で追いはじめた。
アフター5と称される時刻になぜ私が帰宅しているかというのも ひとえに火影様の配慮ありきのことだ。新婚という言葉の強調な後押しか カカシ先生がつくづく私に甘いのか どちらにせよ有難いことに、医療班も任務も当面の間仕事量が減らされたのだった。

これってすごく幸せじゃないか。この先苦労は多くても 好きな人のそばにいてこれから生きてゆけるなんてさ。

さあさ 花の新婚生活楽しむぞ。すっかり楽しくなってきてしまった私は夢中でページをめくり、新婚旅行の特集にかじりつく。お互い休暇を取っていないけど 今からでもハネムーン休暇を取れるように調節してもらうのもいいかもしれないなあ。

「ただいま」

そうこう考えてるうちにシカマルが帰ってきた。



「おかえりなさい あ、あなた!」

折角なので、キバが提案してくれたエプロン姿で玄関先に歩み出てぎゅうと抱き着いてみる。途端“お前 頭でも打ったのか”という顔をされた。


「ご飯にする?お風呂にする?それともワ・タ・シ?」

「風呂」

即答…
なんのこれしき。

「お湯加減見てくる!」

「なんか気合い入ってんな…」


今日はおかあさんもいないし、新妻としての仕事は完璧にこなしてみせるのだと 意気込んで風呂場に駆け込むまでは良かった。


「あっ お風呂の栓するの忘れた!」

「んじゃあメシで」

「ああっ!炊飯ボタン押し忘れてるー!」

「…」

「ごめん…」

「ちと張り切りすぎじゃねェか。いつも通りでいいんだけどよ」

「舞い上がってるのかも 私」


パーフェクトにこなしてみせる筈が、お風呂の栓を閉め忘れ 炊飯器のボタンを押し忘れ 一気にツーアウト。ひしょげて居間に戻ると、ベストを脱いで着替えたシカマルが つい今しがた私が読んでいたゼク○ィを興味半分でパラパラと捲っていた。


「まあ 選択肢はあと一つ残ってんだろ」

流し読みで伏せられた三白眼は、持ち上がるなりあやしく細められる。

「最後のヤツで」

「えっ」

「お前も結構策士だよな」


「ちっ違うよ!そんなつもりじゃ…」


にやりと笑ったシカマルが私の手首を緩く掴み、そそくさと寝室へ連れていく。
キバ、あんたすごいよ。ばかにしてごめん。
抵抗の余地なく エプロン姿のままいそいそとついていきながら、私は胸の奥深くでキバに謝ったのでした。


プラリネのように



チュンチュン。
目を覚ますと室内が明るくて 窓の外も見渡す限り 一面の銀世界が広がっていた。
段々と暖かな陽気に近づき、雪の朝ももうそろそろ、この冬最後になるだろう。まだ寒くて はなれがたいな。

「起きて」

「ん 眠ィ」

「起きてったら」

「…あと五分…」

シカマルの背中を揺する。
眉間にはシワひとつないだらけきった顔だ。ささやかで でもかけがえのない、私だけが知る寝顔。

「遅刻しちゃうよ」

今日の場合遅刻するのは私の方。“もうちょいこのままで”に付き合いたいのは山々なんだけど、生憎身支度も整い、出勤する時間なのだ。
嫁なのにごめんね。



「…気ィつけてな シズク」


ベッドから離れようとすると 微睡むシカマルが上体をお越し、私の頭を引き寄せてキスをしてくれた。
寝起きで声がわずかに掠れていて 不覚にもときめいた。


「いってきます!」

結局のところ 新婚さんというのがまだ掴めない。行ってきますのキスもホントは逆なんだろうし、私たちって変な夫婦なのかも。それに、おかあさんが新婚さん“気分を味わえ”と言ったように、頑張ってなろうとしてなれるものなのかもしれない。
でも 1日ごとに新芽が膨らんでいくように、私たちの新しい関係が ゆっくり体の端々に染み込んでいくといい。
だらしない寝顔にそう願った。



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ルリカ様リクエスト【シカマルで 連載番外編 新婚さんで行ってきますのキスなど甘傾向】でした。
ルリカ様、リクエスト頂き 誠にありがとうございました!



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