里内外の知人で溢れかえる大賑わいの式というシズクたっての願いを叶えたので 後は親しいうちでのんびりやろう という計画だった。
しかし女相手に物事が予定通り運んだ試しなどなく、それが嫁相手でも同じことで 今回もシカマルの要望はあっさりと砕け散ることになった。



なぜか二次会にも一族がこぞって総出し そこに相棒の山中・秋道両一族が酒樽を抱えて門を潜ってやってきた。古い馴染みが揃って気を良くした姑は時期尚早に“初孫”を引っ張り出して 今日はよく酒が進む。
五代目火影も大吟醸を思う存分呑み浸り、六代目はというと親代わり兼師匠としての感慨深さ故か 酒もなしに泣き上戸になっている。勿論うずまきナルトを先頭に同期の一行も乱入し、歌って 踊って 暴れての大騒ぎ。
いよいよ大所帯でわけがわからなくなっていく。
本日は無礼講なり。

「ごりょんさん」ひっきりなしに呼びよせられては 笑顔で酌をして回る花嫁。
一方 新郎は、こんなときまでイズモとコテツの絡み酒の餌食になっている。「結婚は人生の墓場だぞ」「お前は絶対尻に敷かれるんだ」等々 結婚も昇進もシカマルに追い越された二人の助言がどこまで参考になるかはさておき、気付けば門出の晴天は星空に変わって 祝いの宴は夜遅くまで続いたのだった。






陽気な一同を帰して寝室に入った頃には、二人ともすっかりくたびれてしまっていた。


「あー疲れた」

「疲れたね」

「誰だよ リーに呑ませた奴」


「綱手様があいつの酒乱は愉快だって」

「愉快じゃねェよ。危うく家壊されるとこだったぜ」

「でもみんな笑ってたね」

「酒回ってたからな」

「カカシ先生が酔って泣いてるの見て、なんだか私 もらい泣きしちゃった」

いやあれは、言いかけてシカマルは口を噤む。カカシが一滴も飲んでおらず 素面で泣いていた事実は黙って置こうと決めた。


「疲れたし寝るか」

「そ、そうだねえ」


朝からの 気を抜く暇もなく過ごした疲労に促されるまま、シカマルはごろりと横になった。






「ねえ シカマル」


嫁の声が一瞬の静寂を遮る。


「…あ?」

寝返りを打った先に 嫁が神妙な顔つきで正座待機しているのだから、驚かないわけにはいかない。


「“きちんと”しないと」

「きちんと?」


頬を赤く染め 伏せ目がちに見つめてくるシズクの様子が暗がりに判って シカマルも体を起こす。
まさしく添え膳である。
今日はお互い疲れているから 新婚初夜だ何だとめんどくさいことは言わずに置いたのだが、夫婦として寝所を共にするのは正式にはこれが初めてであるし 果たしてそういう誘いと見なしていいのだろうか。

一通り逡巡して シカマルが手を伸ばしてシズクの肩を掴みかけたその時、何を思ったか 彼女はわああと顔を両手で覆ってしまった。


「そうじゃないと 私、奈良シズクじゃなくて奈良マグロになっちゃう!」

「はあ?」

「一族の当主で 六代目の参謀までちゃっかりこなす実力派上忍の、妻がマグロ女じゃいけないんだああ」


シズクの間延びした語尾に、シカマルガックリ肩を落とした。


「いつの間に呑んだんだよ…」


どうせ五代目あたりが「シズクお前ぇ、夜は長いんだぞ!グースカ寝ちまわずに“きちんと”やりな!」などと言いくるめてご丁寧に下ネタも吹き込んだのだろう。未婚の癖によく言うものだ。

頬の紅潮は恥じらいではなく、酌の付き合いで呑んだ強い酒のせいであれば 伏せ目がちの両目も ただ睡魔で瞼が重いだけなのかもしれない。

「寝ろ」

「でも」

「マグロでも何でもいいから寝てろ酔っ払い!」


そう言って シカマルはシズクをベッドに押し倒す。
これに色めいた行為の気配は欠片もなく、その証拠に、毛布を被せるとシズクはものの数十秒でとろんとした表情になった。


「ったくめんどくせー…」


大袈裟な溜め息も、幸せそうに寝息を立て始めた嫁には聞こえない。女とは 何と破天荒な生き物か。
こんなのを一本釣りしておいて何だが 自分に平穏が訪れるのか 、やれやれ先が思いやられて一抹の不安が過る。
その内にシカマルも瞼が重くなってきて 気付けば夢の中にいた。



いつもの縁側で アスマとシカクが将棋をさしている。
覗き込む。
こちらに来ても恩師は一向に将棋が上達しないらしく 勝機がとうにシカクに傾いていると気付いてもいないのだった。


「なあ」

声をかけると 二人は揃ってシカマルの顔に目を向けた。


「結婚は人生の墓場だったか?」

「悪くない墓場さ」

アスマは煙草の煙を細い雲のように棚引かせる。


「シカマルよぉ 夫はな “はい”と“判った”だけ言えりゃいいんだ」

父は顎髭に手をやって笑っていた。曰く 損得勘定ではなく妥協である。





そこで目を覚ますと あたりはまだ暗かった。はて 夢うつつに何を指南されたか定かに思い出せない。
冬の寒さに頬を冷やしたシカマルは、隣でぐっすりと眠るシズクに腕を回した。
シカマルのトレーナーのが暖かいからと、寝間着の上から大きめのそれを着込むシズクの姿は 白無垢とうってかわってきらびやかさもないが、ずっと安心した顔で熟睡している。
非常にぬくぬくとした 人間ゆたんぽ。
悪くはない。
これが人生の墓場なら 狭いが案外暖かい。報告する必要がある シカマルは再び夢へと落ちていった。



馬には乗ってみよ
人には添うてみよ



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シュウカ様リクエスト【シカマルで 連載番外編 結婚式からの二次会からのそれを終えた二人】でした。
シュウカ様、リクエスト頂き 誠にありがとうございました!



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