“超重要任務発生 ○○地区××通り△△番地へ急行せよ”
緊急事態を知らせる式がシカマルの忍鳥に運ばれてくる。間髪置かずに瞬身で駆けつけたそこには――くりくりの円い瞳が 私を待っていた。


「ママ!すけっと きたー!」


成程 そういうこと。
名を名乗るならまずは自分から。目線の高さを合わせてゆっくり自己紹介をする。


「はじめまして。私は シズクっていいます。あなたは?」


尋ねなくても知ってるけど、すぐに元気な声で名前を教えてくれた。

「さるとび ミライ!」




*



「悪いわねシズク。あなたも忙しいのに引っ越しの手伝いさせてしまって」

「いえいえ!ちょうどお昼休憩中ですから」

右手に冷蔵庫、左手に電子レンジをひょいと担いでアパートの階段を駆け上がる。女子の怪力がもの珍しいのか ミライちゃんの歓声があがった。喜び勇んでトコトコ後ろをついて来ようとする。


「ミライ、おうちの中で待ってましょ?」

「みるの!」

紅先生そっくりだけど 眉をキッと釣り上げるとアスマ先生の面影があった。まあるい頭が動くと黒髪に天使の輪がきらめく。ほんとに天使。もうかわいくてかわいくてしょうがない。

大まかな家財道具を新居に配置し終えた頃になって ようやくシカマルは現れた。

こんちはと聞こえるなり ミライちゃんが脱兎のごとく駆け出し、サンダルを脱いでる途中のシカマル目掛けて飛びついた。

私はその瞬間 シカマルの仏頂面が明らかに変わったのを見逃さなかった。


「シカマルの兄ちゃん!」

「また背ェ伸びたな ミライ」

「うんっ!」

ひまわりのように咲いた笑顔に迎えられて 眉も寄せず 笑みが緩んでいる。ミライちゃんにぐいぐい引っ張られて部屋に入ってきたシカマルは やわらかくて あまーい感じだった。

それから先の引っ越し作業は 言うまでもなく、シカマルがミライちゃんの専属のお相手だった。
新しく覚えた言葉を 物を ミライちゃんは嬉々として話して聞かせる。シカマルもまんざらでもない。目に入れても痛くない、といった表情で 小さな頭を撫でるのだった。
まるで父親みたい。

そういえば紅先生の妊娠中 検診の都度シカマルがフラリと木の葉病院に現れるものだから、お腹の子の父親はシカマルなんじゃないかっていう噂が院内でまことしやかに広まっていたっけ。


「私の恋人、取られちゃいました」

こそこそ話をすると、紅先生がクスクス笑う。

「昔のあなたとカカシもああだったわよ」

「そうでしたか?」

「そうよ。べったりだった」


そうかも。
めんどくせーの一言もなく積み木遊びに興じる彼氏を見やる。シカマルは夢中で こっちの話なんて聞こえやしない。
シカマルとミライちゃんの関係性は、図らずもカカシ先生と私のそれに似ていた。

「シカマルはいい父親になりそうね」





しかし一度魔法が解けてしまうと 優しいシカマル兄ちゃんも 元のメンドクセー星人に戻ってしまうのだった。


「お引っ越しのお手伝いならはじめに言ってよね」

曰く“超重要任務”を終えて木の葉の中心部に向かう道すがら 私は前を歩くシカマルにブツクサ不平を言う。医療班のお昼休憩は過ぎていて 仕方なく屋根づたいの移動。

「チョウジもいのも急な任務入っちまってよ。緊急なのはマジだったんだ」

「だからってあんな言い回しで連絡寄越さなくても」


「お前もミライに初対面出来たんだしいいだろ。めんどくせー」


「うん、まあ」

のせられてる。いけない。


「今週末 紅先生に式の日程お知らせして、その時にミライちゃんには私のこときちんと紹介してくれるって約束だった!」

「それも済ましただろ」

「でも嫌われちゃったかも」


“およめさん”という言葉にミライちゃんは雷が落ちたような衝撃を受けて シカマルと私の間に割って入ってわあわあと泣き出してしまったのだ。


「今日は確かに変だったな。ミライは人見知りしねェし、お前ちびっこと仲良くなるの得意なのにな」

あ シカマル気付いてないんだ。こういうことには鈍感なんだから。

「でも可愛かったろ、ミライ」


ほらまた。


“めんどくせーけど、籍入れとくか”

それが 口下手な彼のプロポーズらしき言葉だった。
好きとか愛してるとか そんな甘いセリフをシカマルに期待してたわけじゃない。
言わなくても通じ合えるって理想的だけど でも ときどきは、言葉にして欲しいときもあるんです。
ミライちゃんにはニコニコと素直にスキンシップをしといて、私のことは適当になってきてませんか。

そういえば 前にコテツさんが言ってたっけなあ。無自覚は時に自覚があるより罪で、いっそ自覚的にアプローチされたほうがマシだって。
ふむ、

「ここはコテツさんのアドバイスを参考にさせていただこうかな…」

「なんだよ?」

ちょうど火影邸目前の屋根瓦に降りたった時、私は両手でシカマルの手を握って思いきり引いた。

「!」

突然の怪力にシカマルが油断した顔で 引っ張られるままに仰向けに倒れる。すぐには起き上がれないよう、私はシカマルの顔の脇に両手をついて近づいた。これぞ秘術・屋根ドン。


「何す…、」

ポカンと開いた口を同じく口で塞いで ほとんど奪い取るように舌で絡めとる。残念ながら 私はもうあのちいさな天使みたいに純真じゃない。白昼堂々するキスの背徳感もスリルなの。
歯列をなぞり、ぺろりと唇を舐め上げる。


「私も、ミライちゃんみたいなかわいい子が欲しいなあ」


意外に鈍感な木の葉隠れの俊英奈良シカマルさんでも これは判るでしょ。
私だって照れくさくって恥ずかしいけど シカマルはそれ以上。耳を仄かに赤くしながらも 最後には頷いた。


「…確かに」


黙秘権は行使させません



(六代目様…)

(ん?)

(あそこの屋根の上でシカマルとシズクがイチャイチャしてますけど)

(何ィ!?)


―――――――――――――――――


りお様リクエスト【シカマルで 連載番外編 シカマルとのイチャイチャ】でした。
りお様、リクエスト頂き 誠にありがとうございました!



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -