卯月の昼 瞼は甘やかに重い。

眠気を誘うあたたかな陽気の中、ゆっくり歩いて商店街へ行った。新鮮な青菜と魚をよく吟味して丁寧に買った。自宅には戻らず とあるアパートに立ち寄り、合鍵を使って部屋に入った。
部屋の主は任務に赴いている。


キッチンの流し溜まりに溜まった皿洗いから片付けを始めて、一週間分の埃を払う。
ベッド脇にあたらしく写真立てが置いてあることを発見し「へえ…」ちょっと考え事をして、作業を再開する。
洗濯機を回し、買った食材で野菜のごろごろ入ったスープと、サワラのムニエルを作った。

作り終えるころには日が傾き、ガチャリと扉が開いた。


「お帰り、サスケ」



「…シズク 何で居る」

「何でって今日は月曜日でしょ」

サンダルを乱暴に脱ぎ捨て、不機嫌な顔でサスケは自室に足を踏み入れた。

「ご苦労様。任務どうだった?」

「…いつもと同じだ。くだらない」

きっと今日も猫の捕獲や草むしりだったのだろう。
腹をすかせて帰ってきたサスケに、ムニエルとスープと炊きたての白飯を出した。サスケはさらに怪訝そうな顔をする。食べ盛りの男の子だし がっつりした料理が良かったのかも知れない。急いでトマトサラダとおかかのふりかけも添えた。「違う」献立に対する不満ではなかったらしい。

「来るなと何度言ったら判る」


「残念ながらこれはボランティアじゃなくてれっきとした任務なのよ」


数年前 これといって取り柄のない下忍の私に、ヒルゼン様はとっておきの単独任務を与えた。
“毎週月曜日に、一人で暮らしておるうちはサスケの身辺のお世話をして欲しいのじゃ”
命令を受けてから何度目かの春が来た。

「直談判なら私じゃなくて三代目様に言うのね」

「三代目には言ってある」

「あなたに生活力がないから私は派遣されてるの。偏った食事じゃなくなって、ベッド脇の大事な大事な写真立てにも埃が積もらなくなれば、私だって任務完了って報告書に書けるのよ」


反抗期なのか、最初から口が重かったサスケは年を重ねるごとに辛辣になっていく。容姿は完璧な造形を誇っているのに心はフリーズドライ。なかなかに惜しい。
邪険にしておいて結局平らげるんだから、なんと自分本位なものよ。

「おいしい?」

「…」

サスケは無言で空の椀を私に向けて差し出した。

「本当にお子ちゃまなんだから“サスケくん”は」

「子供扱いするな」

「そういう態度が子供なのよ」


苛立つ顔も気分の悪い猫のよう。あんまりかわいくてからかうと、サスケは特盛りの茶碗を受け取りもせずこちらを睨み付けていた。

「歳上だからと調子に乗って 判ってねえ様だな」

そっちだって、今日は随分とやすい挑発に乗ってくれるじゃない。

「何?思うところがあるならやってごらんなさいよ」


直後、サスケの手が私の襟元を掴む。
力は強いけれど本気ではないところを見ると、常日頃からからかう私に一泡吹かせたいだけのようだ。


距離の縮まったサスケをじっくりと捉える。
真っ黒の瞳が、すっと伸びた鼻が、白い肌がすぐ近くにある。

一瞬の高鳴り。
このチャンスを待っていたのよ。

私は首をちょっと伸ばして、サスケの唇に自分の唇を重ねた。
意外にも女の子のようにやわらかいそれに。



「ッ!」

勢いよく突きとばされ、テーブルの上の食器がカチャンと鳴る。


「照れちゃって かわいー」


頬を赤く染めて目を逸らしたサスケ。
アカデミー時代からモテモテでも、普段は女の子を寄せ付けない性格だから、こういうことには慣れてないんだろう。
いとおしくて、つい謝りもせずに笑ってしまう。


「あれ もしかしてファーストキスだった?」

「ち 違う!」

「へえ〜違うんだ。さすがナンバーワンルーキーのサスケくんね。もしかしてあの集合写真の子?」


「…お前に話す筋合いはない」


あ やっぱり写真の子なんだ。あのピンクの子可愛いものね。ねえサスケ 教えてよ。今のキスは何回目にカウントされるの。


「言っとくが サクラじゃないからな」

急に弁解し出した彼は、まだ十二なのに声が一人前に大人びていていけない。
瞳は艶やかで色気がある。
じっと見つめられては、歳上だからと余裕ぶる演技もなし崩しになってしまう。


「誰だって構わないわよ。上書きすればいいんだし」

「…上書きか」

「?」

「その必要はある」


再び伸びてきた手は、胸ぐらを掴むでもなく、顎を掴むでもなく、空を掴んで戻っていった。
負けん気もプライドも強いと、大変ね。素直になってくれなくて。


かわりに先程の柔らかい薄い唇が距離を縮めてきたので、瞼を伏せた。

やや強引にぶつかってきた感触に、ほら きちんと手を添えないから歯がちょっと当たって痛いじゃないのよ。
内心呟きながらも髪を指を絡ませて受け入れた。


私は君の過去を知らない。
今しか知らない。
今しかいらないから、どうぞ気が済むまで都合の良い存在にしたまえ。ただし、わざと部屋を汚くしとくとか、そんな幼稚な気の引き方はしないでよ。


「…今度は休日に来い。シズク」

「任務日の変更?」

「いや …関係ない」


やっと 任務報告書だけの繋がりが別の名前の関係になれるのね。


「お望みなら何曜日にだって」



忍者なんか辞めちゃって、いっそこのまま家政婦にでもなってしまおうかしら。
違うわね。
下忍班の集合写真が飾られているのを見て気付いたのよ。私はあなたの大切になりたい。





お望みなら何曜日でも



―――――――――――――――――


ヒナ様リクエスト【サスケ短編 年上夢主で甘め】でした。
ヒナ様、リクエスト頂き 誠にありがとうございました!



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -