ウチの家族はみんな忍者だから、父ちゃんも母ちゃんも毎日とっても忙しい。好きなときに好きなだけ遊んでもらえるわけじゃないし、任務で何日も帰ってこないときだってあるの。
「お前の父上はな、忍界の英明と名高い忍なんだ」「シズクさんが忙しいときは、お前がシカダイの面倒を見て待つんだぞ」木ノ葉丸先生は口を酸っぱくして繰り返すけど、エイメイってなあに?しらない。
わたしがしってるのは、めんどくさがりの父ちゃんと、口うるさい母ちゃんなんだけどなぁ。

でもね、今日はふたりそろってお休みの家族感謝デー。
特別な日なの。

「モミジはこのお弁当を持ってね。あと水筒も」

「はーい」

「おいシズク、ちょっとそこまで行くだけだろ。荷物多すぎねェか」

「いいでしょ。折角のお花見なんだから。シカダイ、おばあちゃん呼んできて。準備できましたって」

「めんどくせーよ」

「こら」

お花見行こって言ったら、公園の桜通りは混んでてめんどくせーってシカダイが駄々をこねた。
そこでひらめいたの。
いつものあの場所ならいいんじゃないかなって。
たくさんの桜の木はないけど ねっころがれる大きなベンチもあるし、顔岩も空もいつもより近くて眺めがいいんだよ。

みんないるのが嬉しくて、わたしは階段をいっきにかけ上がって頂上へゴール。
風がちょっとつよくて、ごう と音を立てて花びらを散らかした。こういうのさくらふぶきって言うんだよね。

「ね、言ったとおりでしょ!特等席貸し切り!」

「穴場だな」

「でしょ!」

待ちきれなくて さっそくお弁当の包みを開いた。ばあちゃんと母ちゃんが朝から張り切って作ったお重には、色んな味のおいなりさん。玉子焼き。唐揚げ。お野菜のお煮付け。そのほかたくさん。おいしそう。

「ソレいらねーよ母ちゃん」

「好き嫌いせずに食べなきゃチョウチョウに身長抜かされるかもよ、シカダイ」

嫌いなおかずを紙皿に乗っけられて、思い切りしかめ面をするシカダイ。
同じく嫌いなかたゆでたまごのサラダを盛られた父ちゃんと顔を見合わせて、ふたりは母ちゃんとばあちゃんが見てない隙にこっそりトレードしていた。ハヤワザだ。
わたしも苦手な野菜を助けて欲しいから、いまのは告げ口しないであげる。

「それにしても、久しぶりに来たな」

「ねえねえ!父ちゃんと母ちゃん、ここでキスしたことあるんでしょ?」

「ぐうっ」

母ちゃんはお茶を喉に詰まらせた。ずぼしなんだ。

「あらあ、その話ばあちゃん初耳だわ〜」

「ねーちゃん誰に聞いたの」

「カカシのじいちゃん」

「そんなのウソよ、ウソ!カカシ先生ったらアカデミー生に何吹き込んでるの…まったく」

母ちゃん ウソツキはドロボーのはじまりよ。
シンソウをたしかめなくてはいけない。
わたしは期待をこめて父ちゃんの顔を見上げた。しかし父ちゃんは これでいてけっこうな演技派なので、表情ひとつかえなかった。食事を終えるとすぐにゴロンと寝っころがる。
にげられちゃった。

「父ちゃん、食っちゃ寝ズリィ 」

「この方が桜がよく見えるだろ」

桜のためじゃなくたって、雲を眺めるのが大好きな父ちゃんは、暇なときはいっつもこうしてる。畳でごろごろする父ちゃんとシカダイを目撃する度に、わたしはテレビで見たアザラシを思い出すの。
しってる?春の国にはアザラシっていうまんまるいおなかの動物がいて、氷の上でボテーンて横たわってるんだって。そっくりなんだよ。

「オレも」

「ごちそうさましてからよ」

「ごちそーさん」

父ちゃんの隣にシカダイも寝そべって、アザラシ親子になる。
いいなぁ、気持ちよさそうだなぁ。

「えへへ!わたしもー」

父ちゃんの隣にごろんと転がってみた。
うすいピンク色の桜が 風にのってヒラヒラ。雲もお空を泳いでる。
見上げると眩しくて、花びらってきらっと光ってるみたいだね。

「きれー!」

「モミジまで」

「ね、母ちゃんとばあちゃんも!」

「…仕方ないわねえ」

ひとりで横になるとひろいベンチも、みんなだとぎゅうぎゅうになった。

「三人だと“川の字”でしょ?五人だと何の字になるの?」

「五人じゃダメだろ。六人なら“州”になっけど」

「シカダイよく知ってんなァ」

「州の字!」

「そうね。あと一本はシカクじいちゃんに取っといてあげましょ」

「見てるかもしれないね」

そっか、ちょっと狭くてでこぼこしてるけど、お空から見たらきっと州の字になってるよね。

手を振らなきゃ。

おじいちゃん、おてんとさまから 見えてますかー!


州の字になって見上げよう


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サカナ様リクエスト【連載番外編、一家がほのぼのしてるお話】でした。
サカナ様、リクエスト頂き 誠にありがとうございました!



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