▼Thumbelina

コンコン


昔むかしの大昔。
大将の個室に繋がるをノックして現れたのは、ちいさな体を似つかわしくない海兵服で包んだ、小さな小さなレディだった。

「今日から青キジ大将の元でお世話になります。フィオと申します」

向けられる手の甲。キャップに触れる指の、爪の先までピンと神経が行き届いていて、初日から挨拶だけは一人前だったのだ。挨拶だけは。
自分の腰にすら届かない クザンにしてみれば親指姫のようなこどもが突然現れて 今日から自分の部下になるなどと宣うものだから、彼は読んでいた雑誌をソファーに投げて立ち上がった。

「こりゃァたまげた。嬢ちゃんいくつよ」

「12よ。もうお嬢ちゃんじゃないわ。名前はフィオ」

こちらが本性なのだろう。建前は最初きりで、それ以後彼女はつっけんどんな物言いに変わった。滑り落ちた雑誌の見開き マイクロビキニの女性が全開になったことと、態度の変化が関係あるかないかは定かではない。フィオは冷ややかな目付きをしていたが。
表情とは裏腹に パーマがかかった髪はふんわりと揺れ 生まれたての赤ん坊のように柔らかそうだ。


「悪ィなお嬢ちゃん。迷子センターは三階なのよ」

「子供扱いしないで。それに 冗談じゃなくて、これは五老星の直令よ」

五老星。
差し出された正真正銘正式な入隊書と辞令を目に通し、クザンはひとつ、ため息を。

「この達筆…あれか、おつるさんの字だな。全く…あのばーさんたちァ何企んでるんだかな〜も〜」

はてさて五老星は何を考えているのやら 冗談がすぎるとクザンは笑う。

「それより…ねぇ大将、ちょっとしゃがんでくださらない?見上げ続けてると首が痛くなっちゃう」

すぐに電電虫の受話器に手を伸ばしたい気持ちもあったが、とりあえず目の前の親指姫の要望に答えてクザンはしゃがみこんだ。
膝を折り、背を丸めてようやっと、ふたりが同じ目線に並ぶ。

「青キジ、あなたも能力者なんでしょう?」

「ん?ああ まあそうだ」

「あなたの力はとっても強いんですってね?」

真面目な表情を繕っていた少女の顔が 好奇心に堪えきれないような、不敵な笑みに変わった。
なんだかなァもう…電電虫を手に取るのすらだるくなり、クザンは近くにあった花瓶に手を伸ばした。
清掃員が今日活けていったらしいチューリップに。

「アイスタイム・カプセル」

呪文のように唱えると、真赤の花びらをみるみるうちに白い冷気が包みこむ。

「入隊記念にやるよ。お嬢さん」

あわく青みを帯びて氷を纏った一輪の花。親指姫に差し出すと、冷たいそれをフィオはまるで宝石のようにそらにかざし 光に透かしていた。

「すっごくきれい」

その瞳のほうがよほど 清くて美しいよ。
どういたしましてサンベリーナ、もとい新しい部下さん。


Thumbelina=親指姫

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