▼誰かが答えを持っている

「またね〜砂のセンセーたち!」

アカデミーの校門を出て来たこどもたちが、笑顔で手を振っている。忙しなく走って帰ってくその子たちに追い越されながら、小さな背中を眺めてる砂の三姉兄弟―――テマリさん、カンクロウさん、そして我愛羅に声をかけた。

「アカデミーの講師、お疲れ様でした」

奪回任務後、人手不足の木ノ葉を支援するために、三人は様々な任務に協力してくれていた。今日はなんと、我愛羅たちはアカデミーの先生代理を引き受けてくれたのだ。
異国の忍者を前に、アカデミー生たちもはじめは緊張していた。けど、華麗に忍具を扱う三人に目を輝かせ、打ち解けるまであっという間だった。

「とっても助かりました」

「御安い御用じゃん?」

「木ノ葉には借りがあるからな。私達に出来ることがあれば何でも頼ってくれよ」

テマリさんの笑みが頼もしい。テマリさんもカンクロウさんも、姉兄だけあって、面倒見がいいんだなぁ。
我愛羅の周りも賑やかだった。手裏剣術のうまくなるコツをみんな聞きたがって、彼の周りを取り囲んでいたのだ。
木ノ葉と砂の間にはあんなことがあったのに、不思議と、前よりずっと距離が近くなった気がする。

「それよりハラ減ったじゃん」

「向こうの通りにおいしい定食屋があるんですよ。お礼にご馳走させてください!」

「お!いいじゃん」

乗り気のカンクロウさんと反対に、テマリさんは慌てて両手を横に振る。

「私とカンクロウは遠慮するよ。ダイエット中なんだ」

「何言ってるじゃんテマリ。ダイエットなん……痛ェ!」

「私たちは構わずに、我愛羅と二人で食べてきてくれ」

見間違えたかな。いま、テマリさんがカンクロウさんの足を踏みつけて黙らせてたような。


*

「お待たせいたしました。砂肝定食と唐揚げ定食でーす」

かくして、我愛羅と一緒に行きつけの定食屋さんに入ったものの、テマリさんとカンクロウさんがいなくなっちゃって、なんだかさっきよりずっと 静かで。

「い、いただきまーす…」

「……」

し、静かすぎないかなぁ これ。

「このお店、お昼はいつもならんでるんだよねぇ」

「………」

「あ、ご飯おかわり無料だよ!」

「………ああ」

ひょっとしてこれ 気まずい?
我愛羅がおしゃべりなタイプには見えないけど、四人でいるときも注文が運ばれてきてからも、無言で手を合わせて食べてるし。
慣れない人とご飯食べるの嫌だったら、どうしよう どうしよう。
なにか話題!

「……すまなかった」

「へ?」

突然そう言い出したかと思ったら、我愛羅は突然、深々と頭を下げていた。短い赤髪がお膳についてしまいそうなくらいに。
わたしはびっくりして唐揚げを飲み込んでしまった。

「我愛羅っ!?」

「中忍試験の前日、オレは病院でお前を殺そうとした。謝って済むわけではないだろうが 本当にすまなかった」

「頭あげて!そんなに謝らなくても」

「お前に詫びなければと予々思っていた」

「わかったから!」

最近目まぐるしく色んなことがあったからすっかり遠い日の出来事みたいに感じるけど、そういえばそんなことも、あったっけ。
ゆっくり顔をあげた我愛羅の、黒い隈で縁取られた目は、どことなく悲しげだった。

「……もしかして、ずっと気にしてたの?」

僅かに頭が上下する。
サスケの奪還任務のあと、病院に連れ戻されたリーさんが、すっとした表情で話してくれた。


「我愛羅くんには助けられました。彼は変わった。それに、前よりもスゴく強くなっていました!今度こそボクも負けません!」


会ってみるまではまさか、って思ってたけど、今はよくわかる。アカデミー生に囲まれる我愛羅と、中忍試験のときの我愛羅とは、全くの別人みたいだ。我愛羅だけじゃない。
テマリさんやカンクロウさんも変わった。
木ノ葉崩しの日から―――うずまきナルトと戦ってから我愛羅は変わったんだ、そう教えてくれたのは他ならぬテマリさんだった。

そっか。
もう独りでいるの やめたんだね。

「気にかけてくれてありがと」


良かったら木ノ葉を案内してもらえないか。
そう言われたのが嬉しくて、食事を終えたあとに、わたしは里我愛羅をあちこち連れ回した。
見晴らしのいい高台でひとやすみしながら、ならんで里を眺める。

「以前は気付けなかったが いい里だ。活気があって 笑顔で溢れている」

「わたしもそう思う」

秋の気持ちいい風が頬を撫でる。
いい里だ、その言葉に胸があたたかくなると同時に、ふと、胸の奥に引っかかっていた疑問が零れた。

「……木ノ葉がいい里なら、なんでサスケは出て行っちゃったのかなあ」

誰にも聞けなかった質問。もしかしたら我愛羅なら、サスケの気持ちがわかるかもしれないと思ったのだ。

「サスケの心に気づけたはずなのに、わたし 何もできなかった。あいつにとって、わたしたちって……この里って いったいなんだったのかなあ」

幼い頃、一緒に遊んだとき。
また明日と言ったら、サスケは手を振り返したのに。
最後に言い争いで、わたしには言わなかった言葉がある。言わなくても伝わってると思ってた。みんなで一緒にいたいって、そう素直に言えたら、何か違ってたかな。

俯いたわたしに、我愛羅は木ノ葉崩しでの戦いを、ぽつりぽつりと話してくれた。
砂に捕らわれたサクラを、ナルトだけじゃなく、サスケも必死で助けようとしていたと。

「近しい者への感情は簡単なものではない。以前はテマリとカンクロウを寄せ付けなかったオレが、自分でも意識しないところで、守りたいと思う対象に変わったように。うちはサスケもそうだと……オレは思う」

「それでもサスケは出てっちゃったよ」

「奴のお前たちに対する感情が変わったとは言い切れない。里を離れたのはサスケ自身の選択だ。お前たちのせいではない。奴が考えた末に下した決断をお前たちが変えたいと望むなら そうすればいい」

大切な者たちに見限られたとき、サスケは孤独になる、とも、我愛羅は言った。
時々、驚かされる。こんなふうに、自分じゃない誰かが、欲しい答えを持っていることがあるなんて。


彼はそこで言葉を区切り、今度はわたしに疑問をぶつけてきた。

「お前は言ったな。オレによく似た人間を知っていると。あれはうちはサスケのことだったのか」

リーさんの病室でわたしが言ったこと、我愛羅が覚えていたなんて、意外だ。

「ううん…あれは、その……わたしのことなんだ」

「お前が?」

「うん。大切なひとがいなくなっちゃったときにね、苦しくて悔しくて悲しくて、世界が理不尽で憎くなって、もう誰もいらないって思ったことがあったの。だから我愛羅に会ったとき、鏡を覗いてるみたいな気持ちになった」

あのときの我愛羅を、色んなものから目を瞑ろうとした自分と重ね合わせていた。だから不思議と怖くなかったし、砂が迫ってきても抵抗しなかった。

「だがお前は仲間を守ろうと盾になった」

「変われたわけじゃないんだよ。またひとりになりたくなかったから」

シカマルのうちにお世話になって、そう思えるようになったんだ。誰かと一緒に笑ったり泣いたりしたいって。

帰り道、我愛羅は。おそらくとっておきの内緒話をわたしに話してくれた。

「オレは風影になりたいと思っている」

「風影!?」

「そうだ。オレも、今度こそ向き合おうと思う。里の者も……自分も 大切にしたい。その為に力を使いたい」

「ぜったいなれるよ、我愛羅なら」

さらさらと、風が木々を揺らし、我愛羅のもとへ色づいた葉を運んでいく。
眼下に広がる里は穏やかだった。里の長になったら、我愛羅は砂隠れの里を、どんな表情で見守るんだろう。見てみたいと思った。


「我愛羅ってさ、忍具の扱いも得意なんだね」

「得意だというほどの腕ではないが」

「今度はわたしにも教えてね、風影先生」

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