▼後悔
みんなの帰還から数日が経った。
「マジすっげー任務だったんだぜ。敵も強えー奴らばっかりでオレなんか、自刃覚悟で戦ってよ!見せてやりたかったぜ、ホント。オレは任務中、あいつらのことは全然心配しなかったな。即席だけどオレが率いてなかなかのチームになったし……チョウジもネジも簡単に死ぬようなタイプじゃねーだろ?だから気にすることねェって。シカマルのやつ軽傷だって?あいつらしいよな。そういやナルトの野郎、新術がなんたらとか自慢しやがってな……あれ結局どーなったんだ?まっ、オレの新術のが何倍もすげーに決まってるけど!今度特別に見してやるよ。ったく、こんな怪我大したことねーんだから、早く退院してーぜ。なあ、赤丸!」
「キャン!」
「はいはいはい」
私は今、キバのけたたましいマシンガントークに病室で付き合っている。半分受け流しつつ、だけども。
みんなのこと全然心配しなかった、ってキバの言葉は、きっとウソだろうな。
強がってるけど、チョウジくんとネジが目覚めるまで、キバはその実とても不安げで、2人の意識が戻ってやっと安心した表情を見せたし。ちなみに、こんな怪我大したことねーんだから、のくだりも全然正しくない。キバも赤丸もれっきとした重症。
退院にはまだかかるとはいえ、これだけ威勢がいいのは、順調に回復してる証拠かな。
キバの枕元の小机には、チームメイトからのお見舞いの品々が置かれていた。“キバくんへ”とカードの添えられた薬はヒナタ。滋養回復効果抜群の蜂蜜の壺……はどう考えてもシノだ。花瓶に飾られたきれいなお花は、きっと紅先生から。
「オイ、ちゃんと聞いてんのか!?」
「聞いてるって。退院したらナルトと勝負、でしょ」
「今のオレはお前にも勝っちまうぜ」
「言うねえ。わたしももう中忍なんだよ?」
中忍、と自分から言っといて、失敗した。チョウジ君の病室の前で見た、シカマルの背中を思い出してしまったのだ。
ああ なんであんな追い詰めるような言い方をしちゃったのかな。
シカマルの背中が心もとなくて、怖くなったのかもしれない。
シカマルはわたしが折れそうなときはいつも、なんでもないように笑い飛ばしてくれてた。それなのにわたしはシカマルを労るどころか、かえって傷つけること言ってしまった。
ホントに、超ばかだ。
キバの病室を離れ、すぐとなりの病室の扉を開けると、待ってましたとばかりにチョウジくんが叫んだ。
「ごはんだー!」
つい笑ってしまう。大食漢の秋道家にとって絶食はまさに地獄の日々だったのだろう。お粥からだけど、今日からやっと食事がとれるのを心待ちにしてたみたい。
「え、これだけェー?!」
「まだ消化器系が弱ってるんだよ。我慢して」
確かにこれっぽっちじゃチョウジ君には物足りないよね。それでも嬉々として病人食に手を伸ばす様子を眺めながら、ベットの足元に浅く腰掛ける。
「シズク、元気ないね」
味を噛みしめながら言い当てた。
「……わかる?」
「顔に出てるよ」
「そっかあ」
友人をよく見てるチョウジ君は、時々ものすごく鋭いな。
「わたし、シカマルにひどいこと言っちゃった」
俯きながら、あの日のやり取りをチョウジ君に話して聞かせた。彼は食べつつ黙って耳を傾けている。
“意気地なし”
あんなこと言いたかったんじゃないの。
「シカマルのこと、意気地なしだなんて思ってない。むしろ逆だよ」
「何て言いたかったの シズクは」
「……おかえり、無事に帰ってきてくれてよかった、って……それだけで良かったのに」
「うんうん」
「シカマルは立派だよ」
中忍になった直後で、隊長演習すら経験してない初任務がAランク。しかも隊員は下忍だけ。特別上忍でさえ敵わなかった強者相手に、殉職者を出さなかった。
「こわかったの。ふたりが倒れてるの見つけたとき、心臓がとまるかと思った。みんなが命懸けで戦ってたんだって分かった…だからシカマルにも、最後まで逃げてほしくなかった」
あんなに怖い気持ちで走ったのは初めてだった。
乱した呼吸が泣いているような音に聞こえた。
「大丈夫だよ。シカマルはいい奴だから、シズクの気持ちもちゃんとわかってるよ」
チョウジ君はそう言って頭を垂れているわたしに笑いかけた。
彼はこういうところがある。もしかしたらチョウジ君にはいろんなことがわかってるのかもしれない。
「そうかなあ」
「そうそう」
「チョウジ君はやっぱりシカマルをよくわかってるね」
「一番の親友だからね!それよりさ、おかわりないの?」
「ありません」
「ええ〜っ」
シカマルはみんなの病室へ頻繁に顔を出してるようだったけど、チョウジ君が言うには、今日は早々に任務に駆り出され里を出ているとのことだった。
会いたいのに 会いたくない。
こんな後悔、はじめてだ。
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