▼また明日、笑って遊ぼう

何も感じない冴えた頭で、足だけがわずかに動く。体を引きずるようにして国境の上を踏みしめ、越えた。

もうここは木ノ葉隠れの里ではない。

一族が殺された日から鍵をかけていたのに、いつからか身にまとうようになっていた感情。第7班で過ごすようになってから、再びオレを取り巻き始めたものだ。
幸福なんて単語は、随分昔に切り捨てた。早く走るために邪魔になる。嬉しさや寂しさなんて疎ましい。虚しく、重く、痛みは痛いだけ。
ナルトの
サクラの
シズクの
カカシの影。
そうして、ついに断った。
これからオレは、深い闇に潜る。


アカデミーでは、手裏剣すらまともに投げれない、練習も怠るようなくのいちたちに囲まれた。
隣の席の月浦シズクという奴の、しつこさは筋金入りだったが、そいつは修行には興味があるよだった。
アカデミーが休みの日、オレを探しに森へ来たこともある。

「忍者ごっこしよ!」

「ついてくるな。オレはごっこ遊びなんてしない……本物の忍者に早くなるんだ」

「なんで早く忍者になりたいの?」

「オレは…」

「オレは?」

「……うちは一族だから」

うちは一族だから。
そう言って後悔した。
物心ついたそのときから、オレにもその椅子が用意されてるはずだった。だがオレの体は兄さんと違って、求められる器の大きさには全然あわないようだった。
ああ あのフガクさんの息子さんか。
あのイタチの弟か。
あのうちは一族の。
そんなセリフは聞き慣れた、聞き飽きた。いつまでも、オレの名前が呼ばれることはないのだ。

しかし 同じことを言われると思っていたら、こいつは首を傾げていた。

「うちは一族ってどんなかんじ?」

「知らないのか」

「うん」

うちは一族を知らないやつ。うちはの、強さも怖さも壁も知らない。

「よくわかんないけど、一族って、たくさん家族がいるってことなんでしょ?」

「……」

「シカマルんとこはねぇ、みんなちょんまげ頭にしてるの!だからたくさん集まる日はみーんなちょんまげばっかりで、おもしろいんだ」 

そういや後ろの席の二人組が、月浦シズクは捨て子で育ての親も死んだとか噂していた。奈良家に居候してるのか。
コイツにかかれば、名門うちはも、奈良一族も、ただの家。うちは一族のサスケじゃなく、あの兄さん、イタチの弟でもなく、サスケとして見られた気がした。ただのサスケ。はじめてのことだった。

「あ、サスケ、手にマメできてる」

シズクはオレの手に自分の手を近づけると、チャクラで血豆を治した。

「これはひみつだよ」

コイツ、なんで高等忍術を扱えるんだ。



今となっては形容できない感情が、あのときのオレを満たしていた。
忍者ごっこはしない。けど修行ならいい。
確かそう言った。
日の暮れた帰り際、大袈裟に手を振って叫んだお前の記憶。シズクの顔は綻んでいた。


お前があの日知りたがってた一族ってやつを教えてやるよ。
うちは一族は血塗られた歴史を持つ一族だ。
火を扱う旧家で、警務部隊を任されてた。
そしてたった一夜にして、全員が全員、オレの兄に皆殺しにされた。
このオレを除いてな。
生温い愛なんて存在しなかった。力の渇望しか。

里を抜ける前日の、お前との言い争いは、まるで鏡に映った自分と対峙しているみてェだった。
しかしオレは違う。何かが戻ってくると求めたりはしない。今まで一緒にいた連中を敵に回しても恐れはない。ひっくり返された世界なら、それをもう一度ひっくり返すだけだ。
苦しみには苦しみを。奴の赤く光る目には、同じくこの目を。
前へこの先へ。沈んでいくことを選んだ。

「サスケーっ、またあした、アカデミーで!」

また明日、か。
お前の言う明日をオレはもう望まない。

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