▼隣の席のサスケくん
隣の席の男の子は、黒服に大きな黒目、後ろに逆立った黒髪。全身まっくろだから、背中にある赤い扇のマークが、とても目立ってる。
名前は、サスケくん。さっき授業の自己紹介で知った。まだ話したことがない。
サスケくんは、ふざけたりしないし、休み時間も黙ってることが多い。おとなっぽいって こういうこと?
サスケくんに話しかけてみようかな……やめとこうかな。こういうときって、天気のこととか授業のこととかしか思い浮かばないや。
迷ってじっと見ていたら、サスケくんが真っ黒な瞳をこちらに向けた。
「サスケくん」
「……サスケでいい」
静かだけれど、はっきりした声。
「わたしシズクっていうの。よろしくね、サスケ」
「…よろしく」
よろしく、とだけ。それきり。
話すの、あんまり好きじゃないのかな。
「おい あれってうちはだよな?」
「うん」
「あいつやっぱすげーのかな?」
「う〜ん……じゃない?」
うちはって、サスケくんの名字だ。あの子たちの言うすげーって、何のことだろ。頭を傾げていると、サスケは徐に席を立って教室を出て行ってしまった。
「あれ」
ぼんやり目で追う合間に、シカマルの声がする。斜め前の席はシカマルなのだ。その隣が、シカマルの親友のチョウジくん。
「まだ慣れねーなここは。やっと休み時間かよめんどくせー」
「シカマルも食う?」
「つーかお前、休み時間全部食休みになってんぞ」
「シズクも食べる?」
「あ うん!食べるー」
チョウジくんはやさしくて、どきどきお菓子をくれる。
シカマルとチョウジくんと隣のクラスのいのは一族ぐるみで仲良しなんだって、前におじさまが言っていた。お父さんお母さんおじいちゃんおばあちゃん親戚たくさん、それを一族というらしい。わたしはイチゾクを持っていないから、どういうものか わからない。
ポテチをかじりながら、さっきのサスケの後ろ姿がなんだか気になっていた。
サスケが笑ったのをはじめて見たのは、たしか、アカデミーに入学して半年くらい経ったころ。
「これから上期の成績表を渡す」
「うえーっ」
みんながにがい顔をする中で、サスケは両手で成績表を広げて覗き込んでいた。声には出さないけど嬉しそうに。ちらっと横目で見たら、ぜんぶがぜんぶ、いちばんの成績だった。
「すっごーい!」
「べ、別にこんなのどうってことない」
斜に構えたサスケの頬がちょっと赤かったのを、わたしは見逃さなかった。
その日、シカマルと一緒に奈良家へ帰るなり、わたしは台所で夕食の用意をしてるおばさまのところへ一目散に駆けていった。
「ただいまーっ!」
「おかえりなさい」
「おじさまおばさま、みてっ!」
成績表を取り出して、ていしゅつ。
「あら、がんばったわねえ」
「えへへ」
「シカマルも早く見せなさい」
「げっ……シズク、お前のせいでバレちまっただろ めんどくせー!」
おばさまのかみなりが落ちることもあるけど、奈良家はいつも賑やかだ。
夕食を食べながら隣の席の子のことを話すと、おじさまがお猪口をくいと傾けて頷いてくれた。
「でね、隣の席のサスケって子が、成績ぜんぶいちばんだったの」
「そいつァすごいな」
「手裏剣術のうまくいかないとこ、サスケにコツを聞きたいんだけどなぁ」
シカマルは何故かいけすかない顔をしていた。
おじさまがシカマルを見て、にやりと笑う。シカマルはますますいけすかない顔になる。さっきおばさまに成績表を見せて、ガミガミ言われたからかもしれない。夕飯のサラダにに固ゆで卵が入ってるからかな。
「ねえシカマル、わたし明日はチカゲ様との修行おやすみなの。忍者ごっこしない?」
「めんどくせーけどパス。明日は森の手伝いらしくてよ」
「そっかあ」
誰か他に、と考えを巡らせて、ふと気付いた。
サスケには女の子のとりまきがいるけど、サスケが誰かと話しながら帰ったり、遊んだりしてるとこ、見たことないなって。
「サースーケ、あーそーぼー!!」
うちはさんちはどこかなあとおじさまに聞いたら、ちょっと黙って、里の外周エリアだと教えてくれた。「団扇のマークがついてる家が建ち並んでるはずだ。その中のいちばんでかい家だろうな」と。
そして、次の日さっそく行ってみた。
うちは一族は奈良一族の敷地よりずっと広くて、軒並み新しい。“九尾事件”のあとに、うちは一族はこのエリアにみんなで引っ越してきたんだって。
「どこがサスケのうちだろ。わかんないなぁ」
しばらく通りをうろうろしていると、うちは一族の人間じゃないわたしを見かねてか、年上のお兄さんが「どうかしたのかな」声をかけてくれた。
「このあたりに何か用事?」
黒目がちの瞳に、同じ色の髪。直感的に、わたしは隣の席のサスケを思い出した。
「えっと…シズクっていいます。サスケはいるかなって探してて」
「サスケを?」
「うん。あの もしかして、サスケのお兄さん?」
問うと、そのお兄さんは穏やかに目を細めて笑った。
「そうだよ。オレはサスケの兄だ」
そう。思い出した。
川の側で出会った黒装束のイタチに恐怖を感じなかったのは、昔イタチに会っていた記憶が、どこか頭の片隅に残っていたからなんだ。
「わたし、サスケと遊びたくて来たの」
「そうか。よく来てくれた」
サスケのお兄さんは緩やかな声で落ち着いて話す。
「サスケは今森で修行してて、家には居ないんだ」
「いつ帰る?」
「そうだな……いつも遅くまで頑張るから」
「どこで修行してるの?見に行ってもいいかなあ」
「演習場のある南の森にいるよ」
「わかった!いってみるね。ありがとうお兄さん」
「ああ。弟と……」
仲良くしてやってくれと、そういっていたのに。
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