▼おかえり


「音の里に来れば君の一番大切な人間も、蘇らせることができる。なんていったかな。君の育ての親の名前は」


死んだ人間はよみがえらない。
もし蘇るのならそれは人にあらざるもので、ほんとのあの人じゃない。それでも良いから会いたいよ。悪魔に魂を売ってでも。そんなふうに考えちゃう日もあって。

だから薬師カブトにそう言われたとき、たしかに心が揺らいだんだ。
もう一度会える。
一緒にいられるって。

でも間違ってる。由楽さんは、人は誰だって必ず死ぬものよって、きっとそう言う。
わたしは欲張りだなあ。


この里の人たちはよく笑う。
木ノ葉崩しの後だって、時間を止めたままでいる人はいない。
最近、道端で声をかけられることが多くなった。これから任務かい、頑張りな、おつかれさん、飯くってきなよ。みんな笑って話しかけてくれる。
笑った人から舞台の上へ。
そう言わんばかりに。

すっかり落ち着きを取り戻した木ノ葉の里を散歩していたら、いつの間にか正門まで来ていた。
忍や一般人が盛んに出入りしている。にぎやかな大通り。駆けてくこども。楽しそうな笑い声。おわりとはじまりの門で。

「おーいシズクーっ!」

「!」

「久しぶりだってばよー!」

「ナルト!」

遠くのほう、木の葉が雪や桜みたいに舞い散るなかに、いつもの元気な声が聞こえた。
手を振るその後ろには、自来也様と、あとふたりぶんの見知らぬ影。黒い着物のくの一と、緑の羽織り姿のくの一が、見える。

「おかえりなさい」

やっと会えましたね。


*


綱手様が木ノ葉の里に戻り、真っ先に向かった先は、上忍寮と病院だった。
綱手様の治療で、カカシ先生やサスケはすっかり回復した。目を覚ましたサスケに、サクラは大粒の涙を流して抱き着いていた。

そして、もう一人。
数日にわたる準備を経て、難しい手術に挑む忍がいる。

「では……リーさん、麻酔を打ちますね」

「ハイ!」

この手術が終わったら また修行を再開できます!
麻酔に落ちる直前、リーさんはガイ先生に笑顔を向けていた。
必ずしも成功すると限らない手術を目の前に、彼はまるで、もう治ってます、みたいな顔をして、一ミリたりとも不安も見せなかった。
不安がないのではない。強く強く、信じているのだ。本当に心の強い人なのだと、深く尊敬した。


わたしはその日、不可能を可能にする奇跡の場面に助手として立ち会って、綱手様がなぜ医療スペシャリストと称されるか、わけを知った。
そして確信した。
わたしはこの人に教わりたいことがある。

「お疲れ様です、綱手様」

綱手様はぐったりと椅子に深座していて、私の声には一言だけ、答えてくれた。

「酒」

「え」

「いいから酒持ってこい」

「ハ、ハイ!ただいまお持ちしますっ」

「それと」

と、綱手様が続けた。 

「お前、なかなかいい腕してるじゃないか」

そんなことない。
サスケもカカシ先生もリーさんも、わたしは助けることは出来なかった。
綱手様がいなかったら。

「綱手様、わたしを弟子にしてくださいませんか?」

「…」

「今のわたしでは仲間を守ることができません。だから…」

必死に言葉を尽くしていると、綱手様は唐突に、そして快活に笑い出した。

「本当に似てるよ。お前たちは」

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