▼黒い炎、白い炎

木ノ葉崩しから二週間が過ぎた。
里全体を包んだあのピリピリとした空気はいくらか和らいだものの、警戒態勢は依然として続いている。 

忍里たる体裁を保つため、人手不足であっても里外からの依頼をいままでと変わらずに引き受ける必要がある。カカシ先生をはじめとする上忍方は忙しなく任務に駆り出されていき、わたしたち下忍もまた、自分たちだけで対応できる任務を引き受けていた。

先生抜きの第7班 本日の任務は幼いお姫さまの護衛…という名目の遊び相手。“遊園地”なる場所に来ている。
賑やかで色とりどりで、首都にはほんとうに変わった場所があるんだね。からくり屋敷みたいなたくさんの装置があって、それに乗って遊ぶんだって。


「サスケくーん、飲み物なにがいい?」

「わらわが買いにゆくのじゃ!」

「あ、オレも!オレも行くってばよサクラちゃんっ」

お姫さまはサスケのことがいたくお気に入り。ジェットコースターとかいう乗り物を楽しんだあと、自分でジュースを買ってくると言い、サクラとナルトを従えて出店へ走っていった。
姫を2人に任せて、わたしは残った仲間の隣に座り込む。
どこか遠い目をしているサスケの隣に。


「サスケさ 最近なんかあった?」

「……」

答えはなくて、きりりと、胸の奥が小さく音をたてた気がした。
木ノ葉崩しの後 サスケはどこか様子がおかしい。
班を組んだ頃はナルトを茶化して軽くあしらっていたのに、最近じゃ余裕のないような、葛藤を隠すような表情が多くなった。
サスケが何を考えて、何に焦っているのか。

今のままでいいでしょ、だなんて、言えるわけない。わたしだって、自分の夢が過去にしかないとき、一番幸せなころに戻りたいって思う日があるんだ。
サスケは厳しい位に現実を見てる ここで口を挟むのは野暮だ。


「サスケくん、シズク、2人ともおまたせーっ!」


*

護衛任務を終えて里に帰ってきてからも、サスケのどこか危うげな横顔が気にかかって、わたしはあちこち修理中の木ノ葉通りを、ぼんやり歩いていた。

そのうちにお団子屋さんの前を通りかかった。
ここ たしかヨシノおばさまの好きなお店だ。くるみ団子がおいしいんだよね。久々に奈良家に顔出しにいこうかな。お土産持って。
早速暖簾をくぐり、店番のおばさんに呼びかける。

「すみません、お団子四人前、お持ち帰りでお願いします」

「はあい、四人前ね。って、あらあ!もしかしてシズクちゃん?」

「え?」

「中忍試験に出てたでしょ!」

「は、はい」

「ウチは一家で観に行ってたのよ!」

持ち帰りの準備を始めたおばさんは、にこにこ愛想よく話しながら、持ち帰りの用意をしてくれる。

「頑張ってたものねえ。さ、こっちのごま団子はおまけね」

「えっ あ、ありがとうございますっ」

「また寄ってらっしゃいね。サービスするから!」

木ノ葉崩しで中止になっちゃったし、中忍試験のこと、すっかり忘れてた。
けどなんか嬉しいな。観てくれてる人がいて、こんなふうに笑顔で話しかけてくれるって。
お会計をすませて踵を返すと、ふと さっきまでいなかったお客さんが目に入った。

黒装束の二人組。笠を脱ぎもせず、会話もなく静かに茶屋の片隅にいる。ここは忍里だから身なりの変わった人はたくさんいるけど―――見るからに怪しい。

注意を向けながら茶屋の表へ出ると、

「あらら」

と これまた怪しいカッコの忍と目が合った。


「カカシ先生!」

「シズクじゃないの。なーんか久しぶりだねえ」

言われてみれば、ほんとに久しぶりだ。カカシ先生と会ったのは木ノ葉崩しのとき以来、写輪眼を発動した殺気全開の姿だった。今日のカカシ先生は、とぼけたような、掴みどころのないいつもの先生に戻っていた。

「ナルトたちとの任務の帰りか?」

「うん。先生は?」

「ちょい待ち合わせってとこ」

「待ち合わせ?」

先生甘いもの苦手なはずなのに、わざわざ茶屋で……なるほど!

「休日デートなんて、先生もやるなぁ」

「なーんか誤解してない?」

「邪魔しちゃ悪いし、わたしはこれで!」

先生は相変わらずとぼけた目で、眉を下げている。そっか、カカシ先生にもいいひといるんだなぁみんなにも教えてあげないと!

「シズク」

「?」

「まだまだ物騒だから気をつけなさいね」

「……?はーい」


そのときは、先生の言う物騒の意味を、まだ判っていなかった。まだまだ新米といえどわたしだって下忍なんだからね、先生ってば子供扱いしちゃってさ、なーんて図に乗ってるほどだった。
忍がクサイと当たりをつけたならそれはほとんど正しいってことも棚上げして。


橋を渡り、お団子の袋をかさかさ揺らしながら川沿いの道を歩いていると 突として嫌な気配がした。

「!」

急ぎ振り返ろうとしたわたしの顔を 炎が照らした。
地獄絵図から飛び出してきたような、真っ黒な炎が。

「うわッ!!」

全力で後ろに退くも炎が勢いを増して追ってくる。避けきれない。

「……っ、」 

せめても両腕で体を庇い 襲ってくるであろう痛みに備えてぎゅっと目を瞑るも、

「あれ…?あつく、ない」


閉じた目を開くと、白い炎が自分の体を球結界のように覆い尽くしているのが見えて、それが自分の使うチャクラだということに一息遅れで気づいた。
なにこれ。わたし、今無意識でチャクラを放出した?

ゴウウ。眼前では凄まじい音を放ちながら黒い炎と白い炎とか衝突し、どちらともなく相殺した。わたしの盾となっていた白い炎もふわりと宙に消えていき、開けた視界には 先程の黒装束の忍が二人、佇んでいた。


「これは面白い。イタチさんの黒炎と対抗する術ははじめてお目にかかる」


笠の下、尖った歯をちらつかせる笑み。途端にあたりの空気が肌に突き刺さるような威圧感となって押し寄せてきた。
身体中から本能的な信号が放たれる。これは大蛇丸やキリュウ、我愛羅と遭遇したときに似てる。
気配が並の忍では 戦って敵う相手では、ない。

やおら、もう片方の忍がゆっくりと口を開いた。

「お前の名は……月浦シズクと言ったか」

ぞくり。額にいやな汗が伝う。
さっきの茶屋で、カカシ先生がわたしの名前を呼んだのを聞いてたんだろうか。
そうだとしても なぜ姓まで知っている。
それになんだろう、感情の読めないその低い声が、誰かの声に似ていたような気がしてならない。

「わたしの名前をどこで……」

「歴史から消し去られた一族の末裔の……これも運命か」

まるで風か、幻か。
次の瞬間、その忍はわたしの目の前にいて。
ちりん。笠の鈴が遅れて響いた。

「!!」

桁違いの速さだ 思わず身構えるも攻撃される様子はなくて、その忍はなぜか わたしにしか聞こえないような小さな声で、唇も動かず囁いた。

「この里の忍であり続けたいと願うなら……せめても この里の内外にお前の意思を揺るがす者がいることを忘れるな」

「……え?」

「オレたちの組織だけではない。敵は…」

「それ どういう――――」

そこで会話が途切れた。



「シズク!離れろ!!」

わたしと黒装束の忍の間に割って入るようにして、またしても前触れなく忍が現れた。木ノ葉の忍者ベスト、鼻を掠めたタバコの香り。
アスマ先生と紅先生だ。

「大丈夫か?シズク」

「あなたは下がってなさい」

「はい……!」

紅先生の目配せと共に わたしは数歩後退する。

先生たちは黒装束の二人に負けず劣らずの殺気を放ち、相手を威圧した。

「お前ら里の者じゃねーな。一体何しに来た」

「お久し振りです。アスマさん 紅さん」

「オレ達のこと知ってるってなると、元この里の忍ってとこか」

わたしに話しかけた忍が、言葉少なに笠へ手をかける。
流暢な仕草で晒された素顔と、木ノ葉マークの額当てに走る、横一直線の傷。
真っ黒な髪も、鋭い瞳に宿る赤も。

サスケに よく似ていた。


「フン、間違い無い……うちはイタチ」


うちはイタチ?
この人が サスケのおにいさん?


「イタチさんのお知り合いですか。なら私も自己紹介しておきましょう」

イタチに続いて笠を放った長身の男。この目立つ形相、以前ビンゴブックで見たことがある。波の国で戦った再不斬と、同じ里出身の忍だ。

「干柿鬼鮫 以後お見知りおきを」


「以後なんてのはねーよ」

抜け忍二人に対峙して、アスマ先生は豪気に言い放った。

「お前らは今からオレがとっちめる!」

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