▼あいつと夕やけ

音忍の足止めの役を買って出てなんとか影真似の術をかけたはいいものの、ついに限界が来た。もうチャクラが切れる。

「ムダだ。お前の技は見切っている」

「チィ……」

大の忍9人。多勢に無勢ってやつだ。
……ここまでか。
ナルトとサクラはサスケに合流したか?いや、まだ早すぎるか。もうちょい引き留めとかねーとコイツらが追い付いちまう。

「みんなをお願い!シカマル」

闘技場の混戦、上忍たちに混じって戦ってたシズク。里は。あいつは無事なのか。

「どうやら限界の様だな この影真似とやらもすぐ解ける。覚悟しておけ!」

「きれいだねー」

なぜかわからんが、アカデミー時代のシズクが頭に浮かんだ。
ああ これが走馬灯ってやつか。


アカデミー時代、マラソンはオレには一番めんどくせェ授業だった。
下級生は体力づくりのために、毎日やたらめったら走らされる。連携を目的として集団で並走したり、時に全力疾走させられたり。
言わずもがな、オレは大体いつも真ん中より限りなく後ろに位置してた。もともとやる気ねえし つーかなんでおんなじとこグルグル回らにゃなんねーんだよと、不満たらたらで。早く終わんねーかなと仕方なく足を動かしてた。

そうして今、追い越していったトップに2周差をつけられた。その後ろ姿は、足に自信のあるキバでも 全科首席のサスケでもなく、オレの幼なじみのものだった。

「シズクのバカ!そんなペースあげて、すぐバテるわよー!?」

ゼエゼエと肩で息をしながら、オレの斜め前でいのが叫ぶ。シズクは耳も貸さずに、短い髪を揺らしながらグラウンドを突っ切っていく。

「聞きやしねェよ。アイツ」

「信じらんなーいっ」

信じられねェよな。あいつはいつも走って走って走って走って前だけ見てて。オレの後ろを走っていたチョウジの、そのとき呟いた言葉が、いつまでも耳に残っている。

「なんであんなに急ぐんだろうね」

ホントにな。

それからしばらくして、アカデミーの公開授業だかなんだかで、里中を一周走る大会があった。正門から街、塀、中心部、顔岩の真下をぐるっと通ってアカデミーへ戻る、超めんどくせー行事。しぶしぶ参加したのを覚えてる。
たしか順当にサスケが一等になって、女子たちが疲れも忘れてサスケの回りをキャーキャー囲ってたっけ。
遅くゴールしたオレは、思わず眉を潜めた。
長距離はサスケに並ぶ持久力のあいつが、どこにも見当たらなくて。
ドベのチョウジがゴールしたところで「月浦シズクがまだ来てません」と先生の1人が慌てていた。

「シカマル!シズク見なかった?」と、いの。

「あの体力バカがリタイアするわけねぇし……でも里で迷うか?」と、オレ。

「ボク、みたかも」

手分けして探し始めると、息を切らしたままに、チョウジが教えてくれた。

顔岩の真上に登ったのは、あの日がはじめてだった。疲れた足でキツい階段を延々登って、やっと着いたてっぺん。日が落ちてきた時分に ちいせぇ背中が西日で長い影を伸ばしてた。

「おい!!」

「あれ?シカマルだ」

「あれじゃねーよこの超バカが!!みんな探して……」

「見てよ ほら!」

苛立つオレをお構い無しに、シズクは崖の方向を指差した。
眼下にはオレたちの住む木ノ葉の里の町並み。
ここからぜんぶが見渡せたのか。

「きれいだねー」

派手な建物も木々も真赤な夕日で一様に染まり、家のあかりがぽつぽつと灯り始めてた。

「わたし、ここから見える木ノ葉の里がだいすきだなあ」

ひどく楽しそうに嬉しそうに、あいつは飽きることなく里を眺めていた。
ただの夕焼けかもしれねえが、多分あいつには特別な風景に見えてた。


死ぬとき思い出すって迷信が本当なら、あいつとあの夕やけを、瞼の裏に焼き付けんのも悪くねェかも、そう思った。
あいつの目には、あのときどんな風に見えてたのか いつかオレにも見えると思ったのによ。

人生計画ってそうそう順調にいくもんじゃねーな。
テキトーに忍者やって テキトーに稼いで。
美人でもブスでもないフツーの女と結婚して。
子供は2人、最初が女の子で次が男の子。
長女が結婚して息子が一人前になったら忍者を引退して。
あとは日がな一日将棋や碁を打って悠々自適の隠居生活。
そうして奥さんより先に老衰で逝く。
そんな人生が良かったのに、ガラにもなく気張っちまったな。

普通で終わりたかったのによ、めんどくせーことしちまったぜ。


「お前の言う通り…どうやら限界だ……」

プツン。
影が小さく音をたてて切れた。

「おい そろそろ出て来い」

隊長格の男が待機している9人目に呼び掛けた。

死ぬのか。
こんなあっけなく。

「ついでにコイツの首をハネてやれ」


オレが死んだって聞いたらアイツ、どうなるかな。いい男ってのは女を怒らせても泣かせはしねーんだぜと、クソオヤジが前言ってたっけ。

ああ、くそだせえ。

最期の最期まで考えることがあいつって、オレも相当重症だな。

めんどくせーけど、あいつに泣かれんの、困んだよな。

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