▼裏切り、誘い
「カブトさん…どうして……」
「ボクがただの落ちこぼれじゃないと気がついてたんじゃないのかい?君も」
「死の森で……一瞬殺気を放ったあれが、本当のあなたなんですか?」
「そうさ。ワザとチラつかせてみたんだ。まあ、あの時君がもう少し疑り深くとも、この事態になっていただろうけどね」
この事態。
刃物の交わる音が会場のあちこち止むことはなく、敵味方双方の忍たちが続々に伏していく。誰も声をあげている余裕なんてない。あたりも血と火薬の匂いが濃くなってきた。
これじゃ本当に、戦争じゃないか。
「そんなに怖い顔しなくてもいいのに」
彼は笑い、民間人に向けた惜しむようにクナイを懐に戻した。まるで状況を楽しんでいるかのような、余裕に満ちた表情に、腹の底からフツフツと怒りが沸いてきた。
カブトさんが音のスパイ?いつから?
木ノ葉の里を、仲間たちを売ったの?
「多重影分身の術!」
軽快な音と同時に、五十人はいるだろうか 自分の分身体が大勢現れる。
「10人ずつ東西南北に散って要救助者を処置して護送。残りは直接病院へ。わたしはこの人を始末してから向かう。散!」
コピーたちに命令を下すと、みんなあっという間に瞬身で散っていった。残ったのはオリジナルのわたしただひとり。カブトさんへ体を向け、あらんかぎりの感情を込めた目で睨みつけ、抜刀した。
「カブトさん……木ノ葉を裏切ったなら、ここで殺されても文句はないですね」
「殺す?舐めてもらっちゃあ困るな。百パーセント不可能だよ。君ごときには」
わたしはチャクラ刃に白炎を迸らせ、一気にカブトに迫った。切っ先はマントを掠める。
浅い。けど向こうの手刀もこちらには――許そう思った矢先、わたしの腕に激痛が走った。
「まさか…チャクラのメス!?」
「同じ医療忍者なだけにすぐネタがばれるな」
「いままでは使えないフリしてたっていうの!?」
「ああ。次は筋肉を狙うよ」
攻撃をかわす彼は、たしかにわたしの知ってるカブトさんとは別人だ。一度もこんなふうに人を嘲笑ったりは。
「どうして木ノ葉を裏切るの……!」
「裏切る?誤解しないで欲しいな、ボクは最初からこの里の仲間なんかじゃない。木ノ葉の連中は本当のボクに気づかなかった」
「本当の……?」
「本当のボクはこんなところにはない。大蛇丸様にはそれが全てお見通しだった。あの人は自分の研究をボクに教えた。絵空事のようだが あの人は不死の術を手にしたのさ。幾多の実験体を経ての偉大なる功績だよ」
「不死の肉体なんてあるわけない!」
間合いをとってカブトと対峙しながら、死の森で見た大蛇丸を思い返した。
「馬鹿げてる!それも、自分が生き長らえるために人の命を犠牲にするなんて!!」
「そんな風に言ってられるのも今のうちさ。大蛇丸様は死者をも生き返らせる。音の里に来れば、君の一番大切な人間も、蘇らせることができる」
カブトはわたしの左へすれ違うように瞬身し、囁くようにこう言った。
「なんていったかな、君の育ての親の名前は」
ふいに浮かんだあの人の顔。
いつだったか、まだあの人が生きていたときのこと。夜の森で、わたしの目の前を、小さな光がふわりと横切った。
「由楽さん、星が落ちてきた!」
「それはホタルっていうの」
恐る恐る手を伸ばすと、その儚い星に、確かに指先が触れた。あのときの光。
いつかまた、とそう思ったんだ。
生き返る?あの人が?
もう一度会える?
カブトは剣筋をしゃがみ込んでかわし、その流れでわたし両足の捕らえた。しまった、油断した。チャクラのメスに、腱を破壊される。
「あッ……!!」
治癒しようにも、カブトに両足を掴んだままで叶わない。試験中に折られた足に再度ダメージがくる。
助けを呼ぼうにも、近くに木ノ葉の忍の姿が見えない。
カブトはわたしの足を片手で束ね 騒々しい戦場に紛れてこう囁いた。
「ボクが百パーセント不可能といった理由がわかるかい?君のそのぬるい仲間意識のせいだよ」
「……っ」
「敵とみなした相手とは冷静に戦える君が、仲間や一度親しくなった者には躊躇する。違うかい?もっと楽しませてくれると期待したのに幻滅したよ」
「黙れ!」
「未練たらしく未だに死人を思い続けてこんな風に気を乱すなんてね。せっかく素晴らしい能力を備えているのに宝の持ち腐れだ」
カブトは強い力でわたしを捩じ伏せたまま、空いたもう一方の手でポーチから巻物を取り出した。
「君はいい研究材料になる。強引に連れて行くのはボクのポリシーに反するんだけどね」
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