▼色づく世界

チャクラ刀の刃先を伝って、白き炎がキリュウの体内に温存されていたチャクラを焼き尽くさんばかりに広がっていく。キリュウは斬撃を受けてすぐに気を失い 崩れるように地に伏した。
邂逅丸の効果が切れたのか 赤く染まっていたシズクの体も元の状態に戻り、鎮火する。

「ハア、ハア……っ!」

肩で息をしながらも、シズクは気丈に立っている。
ゲンマが2人を交互に確認すると、リングに落ちていた木の葉マークの額宛てを拾い上げ、持ち主に差し出した。

「いい試合だった」

そして、会場内に高らかに宣言した。

「勝者、月浦シズク!!」


―――ワアアアア!!
至る所から歓声とわれんばかりの拍手が上がり、立ち上がって両手を振って喜ぶ観客が後を絶たない。

「いいぞー!!」

「やるじゃねーか!」

「見直したぞーっ!!」


「……ブーイング?」

「よく見れば正反対だってわかるだろ」

シズクはゲンマから木ノ葉の額宛てを受け取る。そして高台の観客席に顔を向けるなり ポカンと口を開けたまましばらく固まった。

「お前への声だ。答えてやれ」

パチパチと目をしばたかせているシズクの横顔を見、ゲンマは記憶の中の、待機所で世話をしたかつての赤子の姿を思い出した。あの赤ん坊がな。と、口の端に弧を描いて。


「シズク、ナイスファイトー!!」

「なによもー!心配させて!」

いのとサクラも嬉しそうに口に手を添えて声援を送った。カカシは口布の下で嬉しそうに微笑み、静かに見届ける。

「あんなに強かったのかよ」

「す、すごいね、シズクちゃん…」

悔しそうに歯を剥き出しにしたキバに対し、ヒナタは辺りをキョロキョロと見回した。観客の興奮はすぐにはおさまらず、ざわざわと今の試合について周囲で語り合っているようだった。

「どう思う?」

イズモが試合の是非を訪ねると、顎を手にやったコテツは真剣な面もちでじっと試験場を眺める。

「結構かわいい。怪力とのギャップがまた……」

「違くて。試合のこと」

「あ、ありゃ戦い方がムチャクチャだろ!ま、まあ明らかに下忍レベルじゃないのはわかるけどよ」

「コテツお前悔しいんだろ。あの子がキリュウに勝って」

「ぎくっ……」


「やったなシズクー!さすが、オレが見込んだだけのことはあるってばよー!!」

手摺によじ登って一番うるさく声援をとばしていたナルトは、黙って控え室の階段に向かうシカマルに気づくと その後ろ姿に声をかけた。

「シカマル、どこいくんだってばよ?」

「便所」

「同じ階にあるってばよ?」

ナルトの指摘に答えずに、シカマルは黙々と階段を降りていった。


*

冷めやらぬ興奮の中、次の試合のために会場から退散して、誰もいない廊下をひとり、歩く。歓声の残り火が長い廊下に響いていた。

不思議だ。
知らない人からこんなに声援を送られるのって、なんだかこそばゆい。今まではまるっきり逆の、非難ばかり浴びてたのに。
なんでだろう、こんな一瞬で世界が違う色をして見える。

ふいに、瞼にあついものがこみ上げてきた。汗とごまかして拭い去り、額宛てを付け直して、拳を高く突き上げた。会場におおきな笑顔をむけて。

わたし勝ったよ。由楽さん。


「……あれ…れ」

突然足に力が入らなくなって、体の片側が壁に激突した。
うまく体勢を戻せない。体が重い。まるで自分の体じゃないみたい。視界がぐらぐらと霞んでくる。

「ちょっと…暴れすぎた…かな……」

意識がおぼろげになり、足の裏が床を離れた。
あ、これは流石にヤバイかも。
受け身が 取れない―――

バランスを崩して頭から倒れそうになったけれど、どうしてか固い床の感触はしなかった。

代わりに、安心する匂いが鼻を掠めた。


「心配して来てみりゃこれだ。この超バカが。お前世界一めんどくせェよ」

うっすら見開いた先、気づいたらシカマルがいて。
両腕でわたしの肩を支えてくれていた。

「シカ…マル…なんでここに……」

「これ以上オレをイライラさせたくねーなら黙ってろ」

「………ん…」

シカマルの肩に大人しくおでこを乗せた。
ああ、あったかい。
落ち着くなあ。

「シカマル…」

「だから黙ってろって、」

「わたし……少しは 変われたのかなあ…」

重たくなる瞼に従って意識を手放し、先に続いたシカマルの言葉を、わたしは聞き逃してしまった。


「少しどころじゃねえよ、バカが」



*

ナルトとネジの準備が整うまでの間、貴賓席では木の葉隠れの御意見番 ホムラとコハルが厳めしい顔で先の試合を討議していた。

「月浦シズク」

「鬼哭の事件で死んだ元くのいちの養子か」

ホムラが腕を組み椅子にもたれる。コハルが一層険しい表情を見せた。

「いや、問題なのはその名。あの面影はまるで生き写し…何故あの方と同じ名を持ちあわせたのか 偶然ではあるまい」

ホムラとコハルは今でこそ御意見番の地位へ辿り着いたが、その昔、中忍試験に出場する下忍たちのように仲間たちと切磋琢磨していた時代があった。
二人が仕えた火影は忍界創成期の知将とも名高い二代目火影・千手扉間であったが、彼らの追想はそれより前の火影の時世まで遡る。

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