▼親の心

シズクのチャクラは人の傷を癒す力がある。何の事情があるにせよ、シズクは人の命を救い奇跡を起こした。
将来その力はだれかを助けるかもしれない。
しかし、出自のわからない力は、里に大きな波乱を呼ぶだろう。
この子は国境付近で捨てられていた。今でさえ里の民から不審な目で見られてるのに、能力が明るみに出たら――

守らなくちゃ。
でも、あたしひとりではどうにもできない。

考えあぐねた末に、あたしはある人を頼ることにした。


「ごめんください。月浦由楽です」


チャイムを鳴らすと、静かに開いたドアの隙間からは、眩しい金髪が覗いた。

「やあ よくきたね。由楽」

「夜更けにすみません。四代目様」

「ん!気にすることないよ。さあ入って」

この人は里を治める影たる人になっても、いつも明るく気さくだ。

「クシナ、由楽がきたよ」

「いらっしゃい!久しぶり# 親の名前#」

「すみません。自宅まで押しかけてしまって」

「全然気にすることないってばね!ゆっくりしてって」

お茶の用意をし始めたクシナさんを慌てて止める。

「座っててくださいって!」

「いいんだってばね。由楽も心配性ね」

「ん、オレがやるよ」

「ありがとミナト」

忍の先輩であるふたりは、あたしの憧れの存在だ。ミナトさんには内緒だけど、二人が結婚する前はよく、モテモテのミナトさんについての不満を、クシナさんからあれこれ聞かされたっけ。
その二人のあいだには、もうじき赤ちゃんが生まれる。

「クシナさん、お腹随分大きくなってきましたね」

「でしょ?予定日まであと3ヶ月もあるのに、早く顔が見たくて待ちきれないの」

「ん、3ヶ月なんてすぐだよ」

待ちわびる少し先の未来についての、他愛もないおしゃべり。本来の用事は忘れて このままをとりとめなく続けたかった。

「ところで由楽、式をもらった件だけど オレたちに相談したいことって何かな?」

「はい」お茶をぐいっと飲み込んで、意を決して切り出した。

「シズク……拾った赤ん坊のことなんです」

そしてあたしは、一昨日木ノ葉病院で起こったことをそのまま2人に話した。


*

「治癒能力ってばね?」

クシナさんは珍しく眉間に皺を寄せていた。

「自然と放出したチャクラそのものが、医療忍術と同様の陽のチャクラのように見えました」

「話を聞いた限りの印象では 千手一族やうずまき一族の身体能力、人柱力の回復能力に近いものを感じるね」

「あの…シズクは…その」

クシナさんがいる手前、失礼とは思ったけれど 一昨日からの疑問を口にした。リンの身に起きたあの、痛ましい事件が頭から離れなかったのだ。

「……何者かによって尾獣が入れられてるということはありませんか?」

「もし人柱力なら情報部で何か反応が出てるはずだってばね。それでも 常人以上のチャクラを持ってる可能性は確かね」

「そうですか…」

「ただし、死んだ人を蘇生させるような力が世間に触れ回ることになると良くないね。興味を抱く忍もいるかもしれない」

「それが気がかりなんです。あの子はこの里で居場所がなくなるかもしれない。力を隠す方法はないでしょうか?」

四代目は目を細め、少しの間口を閉ざした。

「チャクラを体内に封じ込める封印術は効くかもしれないね。今回のような無意識な力の解放も防げるかもしれない……。ただし、封印術の施術に、術者は同等程度のチャクラを捧げなくてはならなくなる」

「!」

シズクのチャクラ量から察するに、全てを隠蔽するには忍一人分のチャクラ量では足りない。
あたしの全てを懸けても、半分が限度だろう。

「その術を教えてください」

「由楽、ほんとにその覚悟があるんだってばね?」

「…はい」

「君は以前、綱手様の後継者として、里一の医療忍者としてこの里を守っていきたいと前に話してくれたよね。封印術を使えば、君は自分の夢を諦めなくてはいけなくなるよ」

「……」

膝の上で手のひらをぎゅっと握って、震えながら声を張り上げた。

「それでもいい。あたし、あの子を大事にしたい」

「由楽……」

「会ったばかりだけど、あたしはもう シズクの家族なだから」

ばかみたいに聞こえるかも知れない。でもシズクと出会って 里に連れ帰ってきたときから、あたしはこの子の家族なんだ。たとえ血の繋がりがなくたって、きっとなんだって、できるはず。

「よく言った!由楽、あなたはもうシズクのお母さんだってばね」

「泣くことはないよ。君の本気は伝わった。オレたちもできる限り協力する」

「……ありがとうございます!」

「ん!頑張ろうね」

「私たちがついてるんだから安心しなさいってばね!それに ナルトもいる!」

「……ナルト?」

訊けば、クシナさんはお腹に手を当てて、愛しそうに言った。

「私たちの子だってばね」

クシナさんの掌には、まだ見ぬ未来。やがて二人のもとに生まれてくる希望だ。

「同じ年の生まれになるんだから、仲良くならないわけないでしょ」

「ナルトくんかぁ…いい名前ですね」

「なんたって自来也先生が名付け親だからね!」

「それは強い子になりそうですね!」

「もちろん!未来の五代目火影だってばね」

親子や家族って、こんなに自分を強くするものなんだと 今日はじめて知った。無敵になったきもちだ。シズクのために、なんだってできる。

「由楽、今日はもう遅いし晩御飯たべていきなよ」

「でも…カカシにシズク預けてきてるので」

「カカシが子守りってばね?ぎゃははは!想像できないっ」

「ん、じゃあカカシも呼んで食事会にしようか」

「賛成!腕によりをかけてラーメン作るってばね!」

やっぱりラーメンか…
心のなかで呟きながら、ほっと胸を撫で下ろしていた。ひとりじゃない。中忍待機所でこの子を見てくれるカカシたちや 四代目様やクシナさん。沢山の仲間たちがいる。この先何があっても、シズクは絶対にひとりじゃないんだ。

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