▼勇気

なんだかんだアスマに懐柔されて受験する羽目になっちまったが、やっぱオレらには中忍試験なんて向いてなかったみてーだ。死の森で鉢合わせしちまった日向ネジから慌てて距離を取るあいだに、何度そう思ったか。

「こういうときは切り替えが一番大事よね!よーし!弱い奴を捜すわよー!」

いのはこんなときでもタフな性格してやがる。
けど、オレらより弱え奴なんかそもそもいねえっつーんだよ。情報収集能力にしても戦力にしても、オレらは三人のコンビネーションが成功してようやく敵さんの前から退散できるってレベルだろ?
ない実力で他のチームから巻物奪取しようだとか、無謀に決まってる。

案の定、いくら探してもオレたちで出し抜けそうなやつらはいなかった。

「だからよ……オレらより弱いっつったらナルトチームぐらいだっつーの」

「何言ってんのよシカマル!ナルトとサクラは確かにヘボだけど、あそこには超〜天才サスケ君がいるでしょォー!!」

「フン どうだかな。実戦じゃあその天才も案外モロいもんかもしれないぜ」

いのはオレの言葉に気分を害して、すげー剣幕でこっちを睨んできた。別に煽るつもりはなかったが、ったくめんどくせー奴。

「ハイハイ悪かったよ!カンに障っちまって!」

恋は盲目ってやつか。サスケの事ちょっとでも悪く言うとガンつけやがんだよな。いつも。
まあ、どうでもいいことで話し長引くのは避けてえな…頭をがしがし掻いた ちょうどその時だった。傍らにいたチョウジが、茂みの向こうを指さしたのは。

「サスケがぶっ倒れてる」

「は?」

「ほら、サスケ倒れてるよ。でサクラが戦ってる」

「はあ!?」

なんだよそれ。
俄に信じがてェが、慌てて茂みからおもてを覗きこむと、マジだった。倒れてるサスケとナルト。一期上のリーって奴がなぜか居合わせてるが、そいつもかなり手負いの状況。音忍のスリーマンセル相手に、サクラひとりに食らいついてる。

「なんでサクラが……」

「ナルトとサスケ、死んでないよね」

いのもチョウジも、オレの隣で目ェまん丸くさせながら向こうの様子に釘付けになった。ふたりは気付いてねーけど、オレはどうも、別のことも気がかりだった。

「なんでシズクはいねえんだ?」

「……たしかに」

同じ班のはずのシズクがいねえ。
なんでだ?仲間ふたりが倒れてるピンチで、呑気に偵察出てるとは考えらんねえし、誰か助けを呼びに行ったってんなら、こうして近くにいるオレらと鉢合わせしてたっておかしくねェはずだ。

「シズク、逃げたわけじゃないよね…」

「まさか」

オレじゃあるまいし、アイツが尻尾巻いて逃げるわけがねえ。となると残る最後の可能性は………。
イヤ、そんなことは まさかな。
ありえねえ、よな。

「ねえ!ボクらも逃げよう!あいつらそーとーヤバイよ」

普段のオレなら、チョウジが後退りする前にそうしてたはずだった。けどよ、今回はどーしても、この場から離れられねえ理由がある。

「お前はどうすんだよ いの」

「どうするって、」

「サクラとお前、親友だったんだろ!?」

今でこそサスケを挟んでいがみ合ってる二人だが、色恋沙汰が絡んでなきゃ元々気の合ってた間柄。オレで例えたら、チョウジがひとりで戦ってるようなもんだ。さっさと退散できるわけがねえ。
額宛を見る限り、敵さんは音隠れのスリーマンセル。オレたちが出てったところで勝敗が傾くかと言えば、そんなの甘い考えでもある。

「わ、分かってるけどどうしようもないじゃない!迂闊には出てけないでしょ!今出ていったって間違いなくやられるだけよ」

いののやつ、足震えてやがる。
けど、血も涙も流して それでも敵に必死で噛みついてくサクラを前に、うちの第十班のじゃじゃ馬がこのまま引き下がるかって話だ。

「いの チャンスは今だぜ」

「……!」

「言っとくけど、オレとチョウジふたりして残ってもどうしようもねェだけからな」

「……そうよね!」

しょうがねえだろ、いのが出てくのに男のオレらが逃げられるか。男なら……って筋を通すのが、めんどくせーけど うちの家訓だからな。
チョウジのマフラーを捕まえて三人揃って表に出ると、いのもサクラの覚悟に背を押されるようにして 敵に啖呵を切った。

「サクラ アンタには負けないって約束したでしょ!」

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