▼05 背中合わせの長考(下)

オレとシズクはサクラに合流し、ナルトの捜索を優先した。

けど、ナルトはちょうどそのとき、例のテムジンと要塞に立ち寄ってたんスよね。
引き返してりゃアイツと鉢合わせしてたかもしれねーけど、まあこっちはこっちで、無駄足じゃなかったんスよ。

追跡途中、随分と派手な狼煙が空に立ち上ってた。
轍にも鎧兵の軍団の足跡が混じり始め、全速力で駆けつけたら、案の定キャラバンが襲われてる真っ只中だった。
鎧兵を率いてた女騎士は紙一重で逃しちまったんスけど、キャラバンの長老を辛うじて保護できた。

「すまんのう…」

長身の女騎士は、ゲレルの石はどこだと恫喝してた。
ゲレルの石。
例の移動要塞でもそいつらから同じ名を聞いたと思い出し、オレはじいさんに質した。

「なあじいさん そのゲレルの石ってのは何なんだ」

「ゲレル?」サクラが眉根を寄せる。

「ま、オレらゃ関係ねェが、あいつらの要塞でもおなじ言葉を聞いたんで気になってよ」

こんな辺境の村や少数のキャラバンをわざわざ襲撃して、挙げ句、じいさんの襟首掴みあげて脅迫に及ぶってのは、あいつらが切望する情報がこの人に握られてる証。
じいさんが鍵を握ってんのは明白だった。

「じゃあ、それがあいつらの目的に関係あるってこと?」

「或いは目的そのものか」

じいさんは切迫した表情で視線を落としたまま答えようとしねェ。図星だな。
そこに、キャラバンの怪我人を治療してたシズクが会話を聞き付けてやって来る。

「おじいさん、この先の村も奴らのせいで壊滅したんです」

「!あの村が?」

「このままじゃ被害は拡大します。どうか教えていただけませんか」

「…」

じいさんは未だ口を開かねェ。
もう一押しか。

「まあ別に答えたくねーってんなら構わねえよ」

オレはじいさんに背を向けて、白々しく言ってのける。

「オレら仲間を探さなきゃいけねえしな。行こうぜ。サクラ、シズク」

シズクはオレの意図を察して素直にあとをついてくる。サクラはといえば、困り顔でしばらくオレとじいさんを見比べてたが、やおら立ち上がった。


「待ってくれ」

そこでようやくじいさんの口が開かれる。

「お前たちは…ナルトの仲間なのか」

サクラがハッと振り向いた。

「おじいちゃん、ナルトのこと知ってるの?」

「頼む。力を貸してくれんか。このままでは恐ろしいことが起きてしまう」

恐ろしいこと、か。
こういうのをまさしく、乗り掛かった船っていうんスかね。


*

キャラバンのおじいさん――長老のカヒコさんは、事のあらましを知っていた。そしてこの人こそわたしたちの任務の依頼人であり、わたしが綱手師匠からお使いを頼まれた、薬草の煎じ手。
バラバラだった出来事が、全てカヒコさんのもとで集束しました。

奴らは必ずこの情報を求めて再来する。そして彼らを追ってナルトも現れるはず。
シカマルはそう確信し、待ち伏せを図りました。
わたしがキャラバンの怪我人たちを森の隠し小屋で治療し、シカマルは襲撃跡地に身を隠す。さらに周辺広範囲を、無線をつけたサクラが監視することになったんです。

ナルトと数日ぶりの再会を果たしたのは、ちょうどそのころ。
夕闇が迫る頃のことでした。

サクラが言うことには、岩影に潜もうとしたとき、風上から血の匂いを感じたそうです。そして駆けつけた森の中で、地面にしゃがみこむナルトの背中を確認した。
ナルトは応えなかった。
様子がおかしい、まさか怪我してるんじゃないかとサクラが正面に回ると、その腕には既に息絶えた男の人が抱えられていた。

傷だらけの体を引き摺ってまで敵に仇討ちを挑んだ、その人は先の村の生き残りだったそうです。
そのときのナルトの顔は、見たことがないくらい静かで、しかし火がはぜるような激しい怒りに満ちていた。それがあとになっても忘れられないって、サクラは悲しそうな顔をして言っていました。

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