▼00 小隊長かく語りき

任務から帰還したら真っ先にベッドに身を投げ出したい性分の忍・奈良シカマルは、その日 火影邸に長居を余儀なくされていた。
居残りなどもちろん本意ではない。けれど、小隊長というのは任務後も面倒な雑務処理がたくさん残っているのだ。
例えば、任務報告書の提出とか。

目の前に鎮座する五代目火影に、シカマルは任務報告書を提出した。受け取った流れで綱手の目が文面を辿る。

○月×日小隊長及び報告者名奈良シカマル
奈良シカマル小隊長 月浦シズク中忍 うずまきナルト下忍 春野サクラ下忍 以上4名による、迷子のペット捜索のDランク任務――と、そこまではいい。問題はその後の記述だ。

「なんだ、この移動要塞ってのは」

報告書の中盤にさしかかると綱手の表情がしかめ面に変わった。いくら経験豊富な綱手といえど、地上を自由自在に移動する戦艦やら 強大な力を秘めた鉱石の存在やらを、「ああそう御苦労だったな」と流せるわけもなく。

「おまけに地底遺跡にゲレルの石だあ?」

「…めんどくせーけど、全部真実なんで」

シカマルが小隊長をつとめた、本来であれば紙っぺら1枚に2、3行の報告で事足りる筈のペット捜索の任務は、まさに雲を掴むような話にまで一転したのだ。
そもそも事の起こりは、風の国のとある海岸がとある組織が襲撃した事件に始まる。
風の国より伝達を受け 綱手が近くの任務先に派遣した木ノ葉の部隊へと警戒通知の式を送ったところ、襲撃先の一味を叩いたという思いがけない返事が、それも新米の中忍と下忍の臨時班から返ってきたのだった。
綱手の手元では、“済”の判子がゆらゆらと緩慢に揺らされているばかり。朱肉も乾いていく。
判が押されなくては、シカマルは自宅に帰れない。

「書面じゃよくわからんな。シカマル、口頭で詳しく説明しろ。何があったのか最初から話せ」

報告書はスムーズに受理されず、若き新人中忍に向かって綱手は要求した。木ノ葉としても、同盟国が被害を受けた時点で他人事ではない。出来事の真相を詳細まで知る必要がある。

「了解ッス」

溜め息は深いが、仕方なしに口が開かれ、シカマルの記憶は任務開始当初まで巻き戻されていった。
いつもの、目上に気を遣っているんだかいないんだかわからない口調で。

「始まりは―――」

始まりは確か、火の国と風の国のちょうど国境付近。
五代目様も知っての通り、あの日の任務はペットの捜索っス。オレ、ナルト、サクラにシズクのフォーマンセルで、静まり返った森に息を潜め、木陰でターゲットの様子を窺ってた。
ターゲットの捕獲は簡単だった。めんどくせーけど、下忍になりたての頃はペット捕獲の任務ばっかやらされてたんで。こっちも手慣れたもんっスよ。
小動物の習性を逆手に取ったトラップを前もって張り巡らしてたし、あちらさんはその内のひとつに近づくやいなや、案の定都合良く引っ掛かってくれて、逃げ惑う先は箱ん中。後ろ足に黒い差し毛。間違いなく依頼対象のフェレットだった。依頼書によれば、名はネルグイ。
で、計画通り捕獲は成功。


「ギャハハハハ、バッカで〜!こんな間抜けな仕掛けで捕まってやんの!」

フェレットってのは、結構知能の高ェ生き物なんスかね。ナルトに笑われてんのが判ったのか、サクラの肩では大人しかったネルグイが、なんでかアイツだけ目の敵にしてたっけな。獣同士が対峙した時みてーに毛を逆立てて。
脱兎の如く駆け出したそいつを追い、挙げ句、ナルトは自分で張ったその間抜けな仕掛けに捕まったりして。アイツのバカは忍者になっても全然変わってねえらしく、調子が狂っちまう。超絶めんどくせー奴だ。

「ハァー…」宙釣りになったナルトに、オレは額に手ェ当ててため息ついて。

「バカァー!!」サクラはマジ切れで。

「あっはは」

シズクのヤツはやけに呑気に笑ってた。


「わざわざ金払ってまで、こんな凶暴な猫探そうってヤツの気がしれねーってばよ」

「まあそうフテんなよ。そいつを探し出して飼い主んとこまで届けんのが、オレらの任務なんだからよ」

「それに猫じゃないのよ」と、ナルトの背負った籠を覗き込むサクラ。

「フェレットっていうんだって!よく見ればかわいい顔してるじゃない」

あんな細長い鼠みてェな生きモンがかわいいっつーんだから女の感性はホントわかんねェ。

切り立った岩肌。濃い青の絵の具で塗りたくったような空。国境付近の景色は木ノ葉と随分違ってたが、四人で目的地まで歩く道のりが、まるで里の通りにいるみてェな穏やかさだった。

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