▼44 キバvs畜生道、ナルトvs人間道

サクラがシズク餓鬼道に手を差し伸べたのと時同じくして、国境沿いの更に奥地では依然として戦いが続いていた。

「行くぜ赤丸!」

「ワン!」

「参頭狼・尾追い牙牙転牙ァ!!」

キバと赤丸の人獣混合変化は目にも止まらぬ速さで地を抉り、ターゲットの巨大カメレオンに照準を定める。が、済んでのところでカメレオンは牙牙転牙の軌道を回避していった。

「チィ…しぶてェな!」

キバと赤丸を翻弄する、巨大な輪廻眼を持つカメレオン。肝心の主ときたら、口寄せ動物に戦闘を任せ、離れた木立で一人寝そべっている。忍犬使いのキバとしては、シズク畜生道の態度は見過ごせるものではない。

「シズク!おめェ足止め役だろ!務める気あんのかよ!!」

「だってめんどくさいし〜。私が戦わなくても、カメちゃんと他のシズクたちがなんとかするよ」

「はあ!?めんどくせェだの何だの、女版シカマルみてーなこと…って、危ねェっ!」

キバが物言いをつける間にも、カメレオンの長い舌が自分たちの足元を狙ってくる。シズクを拘束しろといっても、接近する度に口寄せ獣に阻まれていては埒があかない。

「ったく、どうすりゃいいんだよ!」

キバは悪態をつきながら、カメレオンと間合いを背後を盗み見る。目に届く距離で、ナルトがシズク人間道を相手にしているのだ。
みれば、ナルトが人間道の追尾をかわしつつ 影分身の印を組んでいる最中だった。

意外性ナンバーワン忍者と名高いナルトのことだから、何か突破口を見つけたかもしれない。――しかし、キバのその予想は大きく外れることになる。

次の瞬間、森に響いたのは、とんでもない忍術名だった。


「おいろけ・逆ハーレムの術!シカマルバージョンっ!!」

数十人のシカマルが、マッパで森に現れる。
同じ男でもトラウマになりかねない光景だ。

「何気色悪ィ術さらしてくれてんだテメーはぁ!!」

これには戦闘中のキバも怒鳴らざるを得ない。突拍子もない発想といえど流石に限度があるだろう。
効果があるのならともかく、逆ハーレムの術を受けたシズク人間道はといえば、

「ふざけんな!!」

と影分身変化たちを拳で一掃していっている。

「アレ、おかしいな 全然効かねってばよ。前は大成功だったのに」

首を傾げたナルトに、キバは呆れてものも言えなかった。

犬塚キバ、うずまきナルト、月浦シズク。
アカデミー同期生たちの中でもとりわけ活発だった三人は、馬が合わなくともどこか似たようなところがあり、担任のイルカを困らせては並んで怒られていた。

それが、どうしてこんなことになったのか。


「恋心のない今の私に、ンな術効くわけないでしょ!!ふざけんのもいい加減にしないと、ホントに引っこ抜くよ!ナルト!」

「うわっ」

シズク人間道の憤怒の形相は、まるで赤き血潮のハバネロ。影分身を一人残らず煙にした彼女は、最後にナルトの胸ぐらを締め上げた。
この程度で形勢を崩すナルトではなかったが、向かい合ったシズク人間道の顔に思わず息を飲んた。
その瞳が、自分の心の奥にいた闇の一面や、怒りと憎しみに突き動かされていたサスケを彷彿とさせたのだ。

ナルトはシズク人間道に掴まれるがまま、義手の方の腕をシズクの肩に回した。

「…わかった。やるってばよ」

「!?」

「シズクの気が済むんなら、全部やるよ」

掴まれた胸ぐらから、ナルトの記憶と魂が体を突き抜けて引き摺り出されてくる。尚も離れていこうとしないナルトに、シズク人間道ですら動揺を露にした。

「ナルトのやつ 正気か!?」

カメレオンを相手にしていたキバが、ナルトたちの異変に気がつく。

「何してやがる!本気で死んじまうぞ!」

「ナルト…夢半ばで死んでもいいっての!?」

「火影になんのはオレの夢だけど、それが一番大切なわけじゃねェからよ」

一番の目標はぜってー見失わねえようにしてんだ。キバと人間道に向けて、ナルトはあっけらかんと笑ってみせた。
いつからだろうか。ナルトの火影宣言が上辺だけじゃなくなったのは。
空っぽな理想を手放したのは。

ナルトの襟元から腕を通じて、シズク人間道に記憶が 新しい順に届けられてくる。
最近の任務。
カカシの六代目火影就任式。
サスケとシズクの旅立ち。
終戦から立ち直りつつある木ノ葉の里。
そして、サスケとの戦いの様子がシズク人間道の脳裏に広がった。

「またその術か…ナルト…お前のその術が、お前の弱さの象徴なのさ。それは孤独を紛らわせるための術だ」

影分身の術は孤独の術。
言い得て妙だ。

「わかったろ、シズク」

その記憶を見せるためにナルトがわざと拘束されたことに、シズク人間道は遅れて気が付いた。

「サスケにそう言われて、オレ、初めて多重影分身した日を思い出したんだってばよ。あのときイルカ先生が側にいてくれてなかったら、オレってば、千人に分身できても一人のままだった」

「…」

「このままいったらシズクだって、七人に増えても結局一人になっちまうだろ。そんならオレも 一緒に居るってばよ」

一切合切を許す呪文のような言葉だった。
シズク人間を司る怒りの感情が、矛先を周囲からシズク本人へと向きを変えていく。
そのことを当のナルトが気付くことはなかったが。


「――ナルト…アンタは正真正銘のバカだけど…腹立って来ちゃうじゃん。ナルトよりも大馬鹿者になっちゃった自分にさ…!!」

シズク人間道はナルトの襟首を解放した。
術が無効化したことにより、体から引き抜かれようとしていた魂や記憶は再びナルトの中へ戻っていく。

「憶えてろよ、ナルトめ」

シズク人間道はそのまま拳を振り上げると、突として、自分の頭目掛けて降り下ろした。
自らを殴って気絶させたのだ。
くずおれたシズクの体をナルトが受け止め、二人の戦いは終わった。


ナルトの元へ駆け付けようと走っていたキバは、二人のやり取りの一部始終を見、呆れたようにへっと口角をつり上げた。

「ナルトにしちゃやるじゃねーの」

力じゃなくて頭を使え。
単細胞なら、心を使ってぶつかれってわけか。
キバは納得し、踵を返してシズク畜生道の居る場所と近づいた。

「オイシズク!寝てんじゃねえ!」

「えー…何?」

「おめェズボラなんだろ!」

「まあね」

「分裂してんだかなんだか知らねェが……一人で生きんのってかなり面倒くせえぞ!大変になんのがイヤなんなら、一人でいるよりいっそ統合した方が楽なんじゃねーの?」

寝ぼけ眼を擦っていたシズク畜生道は、キバのアドバイスを聞くなり、カッと両目を見開いた。

「ほんとだ……キバ、冴えてる!」

やっぱり同じ単細胞だな。
意外とちょろいぜ。
キバはシズク畜生道が口寄せの印を解除する様子を見届けた。

「どんなもんだ ナルト!」

そんなふうに鼻で笑いつつ、はて、ふと我に返った。

「…で、一体どうやってコイツら統合すんだ?」

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