▼43 サクラvs餓鬼道

「おいシズク、待てったら待て!」

シズク天道の体は歯止めをかけられる。
手首を拘束したのは影真似の術ではなく腕、熱を持つ掌。悩ましげに振り返ったシズク天道は、シカマルを見上げると すぐに顔を反らしてしまった。

「なあ、雨隠れで何があったんだよ?」

「それは……言えない」

「聞かなきゃ判らねえだろ」

問い詰めてようやく、シズクがわずかに吐露しだした。

「雨隠れは外道に任せて、私たちは木ノ葉の里に帰った方が良いの。そしたら全部丸く収まるんだよ」

「その外道ってのがお前の本体なんだよな。そいつはどうしてんだ。輪廻眼を共有するなり、状況は把握してんだろ?追い掛けて来ねェのは…」

掴まれた手を振り払おうとしたその時、それ以上聞きたくない、という心が体現したのか、“神羅天征”が無意識の内に発動する。

「!」

撥ね退けられたシカマルが、地面に片膝をついた。

「シカマル、ごめん…」

「どうってことねえよ。こん位な」

生じた僅かな隙に、シズク天道はその場から動くことが出来ずにいた。

「じゃあ聞くがな。お前、本当はオレたちに止めに入って欲しかったんじゃねーのかよ」

「…」

「そっちの人数までわざわざ密告する必要ねえだろ?オレ一人を呼び出してェんじゃなく、それ相応の戦力を整えさせたかった。違うか」

「…」

「答えろよ」

首を縦にも横にも振らない彼女に、シカマルがさらに追いうちをかける。

「もしかして、雨の里長が言ってたことが関係してんのか?」

いよいよ唇を噛み締めて目を反らしたシズク天道に、シカマルは小さく溜め息をついた。

「…お前、隠してェんならそんなわかりきった顔すんじゃねェよ。バカ」


*


追跡途中の都合上、シカマルは仲間たちに詳しい作戦を説明しなかった。
手の内の情報は少ない。
ただ 勘のいいサクラには、持ち前の頭脳がある。
シズク六道たちの個体が自然エネルギーで出来てる、というナルトの出会い頭の発言。そして、足止め役のシズクが見せた、術を還元してチャクラ化し・吸収する術。
そこから答えを導き出したとき、サクラは思わず笑みを浮かべた。
シズク六道の戦力を利用して 六人を一人に集約しようなんて、将棋好きのシカマルらしいじゃない、と。

そして、作戦の実現には自分が戦っているシズクが必要になることも、熟知した。


「しゃーんなろー!」

気合いに満ちた一撃を地面に叩き込んだサクラだったが、シズク餓鬼道は予想外の反応を見せる。

「ぎゃああああああああっ」

「シズク!待ちなさいよ!」

「だって〜…!」

怪力でその行く手を阻むサクラと、怯えながら逃げ惑うシズク餓鬼道。この一方的な展開が続いていた。

「逃げてんじゃないわよっ」

「そんなこと言ったって、サクラと戦いたくないよっ」

「だったらさっさと捕まりなさい!アンタがいないと元に戻せないのよ!」

「それもやだ〜!」

「アンタねぇ…!」

サクラがシズク餓鬼道を追い詰めるまでに時間はかからなかった。

「もう怪力はやめてぇえ」


こどもみたいに駄々こねる親友の姿に、調子が狂う。
シズクが泣き虫であることはサクラもよく理解していたが、戦いを前に気負けして大泣きする様子は見たことがなかった。

私が知らなかっただけで、シズクもこんなふうに体を縮こませて泣きじゃくったことがあったのかな。

「わかったわよ」

シズク餓鬼道を目前に、サクラは握り拳を解いた。


「もうしないから、顔あげて」

サクラはそのまま 怯えるシズク餓鬼道の隣に腰掛けた。

これがナルトだったら、しっかりしろとサクラも喝を入れているところだろう。しかし ここにいるシズクだって、シズクを構成する一部分なのだろう。
だったら無下にはできない。
サクラはシズク餓鬼道の泣き言に耳を傾けた。

「アンタはなんで早く里に帰りたがるの?」

「そりゃあ 私は臆病だから…本体には必要ない存在だし…木ノ葉にいたほうが安心できる思って」

臆病。
その言葉からサクラが連想したのは、小さい頃の自分だった。
色んなことを恐れて泣いてばかりだった自分。自信がなくて守られてばかりだった自分。臆病だったからこそ、拳をふるう痛みを知っている。
弱いからこそ、何が強さかを考えられた。

影を潜めてつつも自分の奥に存在する感情に、サクラは再び再会したように思えた。

「…ねえ、シズク。第7班の最後の任務 覚えてる?」

「第7班の?」

「そう。カグヤとの戦い」

当時、戦いの最中に命を落としたシズクは 最終局面にカカシの須佐能乎を纏う形で現れ、参戦したのだった。

「カグヤがどういう存在だったか、うまく言えないけど…私たちが当たり前に持ってる感情が、あのときのカグヤにはなかったように私には見えた」

喜び。悲しみ、怒り。恐れ。
長すぎる時を眠り続け、それらを捨ててしまった者。あのナルトでさえ、対話で解決できなかった相手だ。
カグヤの末路には、千年の孤独と、再封印という名のおわりなき隔絶が待っていた。


「弱さとか臆病心とか、怖いって思う気持ちとか、だれにでもあるでしょ。だからアンタたちが切り離されてたら、もとのシズクは性格が変わっちゃうような気がする」

「サクラ…」

「私、シズクがカグヤみたいになったら困る」

「でも」

「必要なのよ。アンタがいないと始まらない」


サクラは立ち上がり、友に手を伸ばした。

「さ、行きましょ!」

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