▼42 サイvs修羅道
「やっと追いついたぜ」
残り二人になったとこでようやく、シカマルといのの手の届く距離まで迫った。
「シカマル…」
シカマルの声に二人のシズクが振り返る。
「敵じゃねーんだ。お前と戦うつもりはねェ」
「…」
「急ぐことねェだろ?ゆっくり話でもしよーぜ」
「そうはいかない。天道、ボサッとしてないで先に行って」
残る六道は、引力と斥力の能力者“天道”と、特殊な拷問の使い手“地獄道”。ここまで来たらどこまでも意地を通す心積もりで、天道シズクの背中を、もう一方のシズク地獄道が強引に押し出して進ませた。
「待てよシズク!」
「私が相手になる」
残ったシズク地獄は、いのとシカマルに対峙し 落ち着き払った様子で印を組み始めた。
「シカマル、アンタはあっちのシズクを追って!」
「いの…お前」
「追って。今逃げていったのが連絡塔に来たシズクよ」
外見が同一の六人を個々に判別することは容易ではないというのに、情報をリークした密告者について、いのは確信持って断言した。
「私はこのシズクを連れて一足先にみんなと合流しとくわ!」
「…わかったよ」
シカマルを背を叩かれるままに先を急いだ。
彼が地獄道の手を潜り抜けて逃げ仰せた後、残された冷酷な眼差しがいのを咎めるように見据えた。
「いの、なんでシカマルを先に行かせたの」
瞳で語られる非難を、いのはフッと笑い飛ばしてみせた。
「こういうときは適材適所でいかないとね!」
「適材適所?」
「アンタ、分裂しても鈍感ねー!私が気づかないワケないでしょ?密告されて心伝身を使った時、あのシズクの頭ん中がシカマルのことでいっぱいだったの、私はばっちり見てんのよ!」
いのの瞳には、シズク地獄道には持ち得ない 友への強い思いが宿っていた。
六道の個性はすでに気取られていた。
「私たちのこと…甘く見るんじゃないわよー!」
*
勇ましい狛犬、耽美な鳥、猛々しい虎。サイが一度絵筆を持てば、墨色の動物たちが彼の巻物を飛び出して四方を駆け回る。
生命力に満ち溢れた美しい術は、かつて上司であるダンゾウをはじめとした様々な忍を魅了してきた。
ただし例外もあり、サイの超獣戯画をビームで滅多うちにしているシズク修羅道は、およそ美学とはかけ離れた感性の持ち主だった。
「やった!百発百中〜!」
狛犬たちを墨溜まりにしながら修羅道が拳を突き上げる。間合いを取り、サイは休むことなく筆を走らせている。
「余すところなく迎撃…か」
超獣戯画での遠距離戦法はサイの得意とするところだが、それは彼女も同じようで、先手を取っても追撃ミサイルで一掃される。
ならば、とサイが文鎮刀を手に接近戦を挑んでも、全身傀儡兵器仕様のシズク修羅道の体からは、どこにランチャーが隠れているか定かではない。
こうして、二人の戦いは泥試合の様相を呈していた。
仲間に対して手荒な手段は取りたくないし、術を酷使すればするだけチャクラを消費する。
戦況が長引いて不利になるのは恐らく自分のほうだろうと サイは冷静に状況を把握していた。
「さて どうするかな」
サイが筆を持ち変えた、そのときだった。
《みんな聞こえるか?》
山中一族の秘伝忍術を通じ、シカマルの声がサイの頭の中に直接響いてくる。
「聞こえてるよ。シカマル」
《それぞれ相手してるシズクだが…捕獲するか説得するかして、最初の橋に帰還してくれ。六道の能力を利用してそいつら六人を一人に出来る筈だ》
指示は端的だった。
下された命令は、捕まえた後に追ってこい ではなく、戻れ。察するに、追跡状況はさほど深刻ではないらしい。
「了解」
数年前のペイン来襲時に里外任務にあたっていたサイにとって、他の六道の能力は未知数。けれど、小隊長に策があるならば従うまでである。
シズク修羅道の遠隔攻撃をかわしつつ、サイは流れるような筆捌きで大蛇を描き上げた。
「忍法・超獣戯画」
踊り出た大蛇は、変則的な動きで修羅道へと迫る。
「さあ来い!」
シズク修羅道は片腕をサイコガンに変形させ、狙いを大蛇の眉間に定めた。
ドォォォォン、盛大な爆発音を立てた渾身の一撃は、蛇を真っ正面から吹き飛ばした。
空中に舞う、大量の墨の飛沫。
「やった」
歓喜をあげる間に油断が生まれたのか、飛沫の下で脱皮するかのように現れた新しい蛇個体に、修羅道は気が付かなかった。
どうやら見える標的に強くとも、引っ掛けには甘いところがあるようだ。
「…って、ウソ!」
大蛇は修羅道に絡み付くと、爪先から頭のてっぺんまでを、呼吸を保つ範囲を残してとぐろ巻きに締め上げた。
「よし。捕獲完了」
サイはぐるぐる巻きの修羅道の脇に着地した。
「ちょっと!これ解いてよ!」
「悪いけどシカマルの命令なんだ。君には大人しくしててもらうよ」
「せっかく心おきなく戦えると思ってたのに!」
シズク修羅道はがきながらサイに不平を漏らす。
「君は戦いを好まない性格かと思っていたけど」
「私の性格、普段は抑圧されてるからでね。本体ってばいつも“戦い合うは良くない”とか綺麗事並べちゃってさ。堅物は困るよ」
「…」
修羅道の口から放たれる愚痴に、サイは瞠目した。
サイの知る月浦シズクは この修羅道のように闘争心に溢れていなかったし、どちらかと言えば 余計な争いを避ける傾向にあった。
人間は様々な顔を持つ。サイがいままで読んだ本にもよくその言葉が登場したが、まさにその通りだ。
彼女は性格のある部分だけ顕著になったような、そんな存在なのか。これはひとつ良いことを知ったと、サイは真面目くさった顔で頷いた。
「しっかし、やっぱいいねえタイマン勝負は。久しぶりに楽しかったよ」
「シカマルがどういう方法を用いるかは知らないけど、君たちは元に戻ることになるらしいね」
「逆戻りか。退屈だな〜」
がっくり肩を落としたシズク修羅道を見、「また戦おう」サイの口から自然と言葉がついて出た。
「キミが任務を終えて木ノ葉の里に戻ってきたら、今日の勝負の続きをしよう。どうかな」
「!」
「退屈しのぎにはなると思うけど」
「…ホント?」
サイの提案に、修羅道の顔は戦闘中でも見せなかった無邪気な笑顔へと変化した。
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